エコキュートに加わる新たな役割 自家消費と需要制御への可能性

2020年9月8日

岩船 由美子/東京大学生産技術研究所特任教授

エコキュートの稼働時間を変えることによる、新たな活用方法が生まれている。
その有効性とともに、今後の運用に向けた課題について岩船由美子教授に話を聞いた。

いわふね・ゆみこ 東大大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了(工学博士)。三菱総合研究所、住環境計画研究所主任研究員を経て、2008年東大生産技術研究所講師、准教授、15年より現職。専門はエネルギーデマンド工学

―卒FITをきっかけに、エコキュートの新たな活用法が注目されています。

岩船 エコキュートの稼働を深夜から昼間にシフトすることで、昼間の需要が生まれ、太陽光発電(PV)の余剰電力を活用できる点が大きなメリットです。また、省エネ効果も期待できます。まず、気温の高い昼間の方が、深夜より効率よく稼働できます。さらに、給湯需要のある夕方・夜間までに貯湯しておく時間が短くなり、放熱ロスが減らせます。

 オール電化住宅357軒のシミュレーションでは、深夜の稼働と比較して、平均11%の省エネ効果が確認できました。また、ヒートポンプ・蓄熱センターや住環境計画研究所などとのシミュレーションでは、電気・ガス併用住宅と比較して23%の省エネ効果が出ています。

―自家消費のツールでは蓄電池や電気自動車(EV)が挙げられます。

岩船 家庭への「蓄電」の導入は時期尚早だと思っています。蓄電池はPVの自家消費でメリットが出るほど価格が安くなっていません。EVにためた電気を使うための「V2H」に必要なパワーコンディショナが高く、家庭の負担になります。その点、エコキュートは給湯器という主な用途を持ちつつ、追加の機能を活用できます。自家消費や省エネによる効果は、2〜4kW時の蓄電池に相当します。

制御なしで昼の稼働に固定化

―VPP(仮想発電所)実証事業では調整力としての活用が検討されています。

岩船 技術的には可能ですが、一つの電気容量が小さく、制御・通信コストに見合った経済性が得られにくいです。また、機器そのものの省エネ性が高い一方、現状ではストックの多くが早朝に湯を沸き上げる仕様に固定されているため、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)による制御などが必要です。

将来的に、再エネが普及してPVなどの余剰電力が増えれば、調整力の価値が高まる可能性はあります。ですが、現状では「制御」と「省エネ」がトレードオフの状況です。

―経済的にペイする方法はありますか。

岩船 アメリカでは、電気温水器や空調に制御機器を後付けして、DR(デマンドレスポンス)によるピークカットで、ピーク時の不経済な発電所の稼働を抑制し、経済的にペイできています。一方で、あえて細かな制御を行わず、料金メニューの工夫により緩やかに昼間の需要を創出する方法も考えられます。

また、従来型のエコキュートでも、時計をずらせば昼間に沸き上げる運用に変えられます。PV電力が不足する日もありますが、エリア全体で見た時、PVのならし効果もあり、例えば九州でいうと、いつもどこか7、8割ほどが晴れているので、省エネになる昼運転の方が価値は高いと思います。

今は昼運転に対応した電気料金ではなく難しいですが、コストをかけて制御機器を付けなくても、比較的安価な再エネ主体の電気を活用し、消費者にも系統運用者にもWin-Winとなる運転が実現すると考えています。

―さらなる普及策は。

岩船 既築住宅におけるリプレイスが課題です。給湯器は壊れた時など、急を要する買い替えが多く、従来型やガス給湯器のままになりがちです。電化はCO2削減に向けた有効手段になるという認識を広く浸透させ、家庭が電化しやすい仕組みや制度作りが必要だと思います。