〝ニューノーマル〟時代に挑む 風水害を想定した防災訓練

2020年9月16日

対策本部ではコロナ禍を踏まえた対策もとられていた

「当社は風水害対応の経験が浅い。イマジネーションを働かせながら、これで本当にいいのかを考えながら対応してほしい」。防災訓練の冒頭に内田高史社長はそう決意をのぞかせるなど、東京ガス史上初めての試みに、会議室は独特の緊張感に包まれていた。

東京ガスグループは7月31日、総合防災訓練を実施した。これは1983年から毎年実施している訓練で、これまでは主に地震を起因とした災害対応を想定したものだった。

しかし、昨年襲来した台風15・19号や、今年の九州・中部地方、山形県での豪雨など、異例の大規模水害が多発していることから、今回の訓練では台風による風水害を想定。また、今年に入ってからは新型コロナウイルスの感染が拡大している。このため、参加者は全員がマスクを着用し、本部に置かれたデスクには一人のみ着席。マイクスタンドの前に飛沫防止のプラスチックスタンドを設置するなど、密空間を避けるコロナ対策を訓練に取り入れた。

風水害独自の対応も 情報提供に大きな課題

訓練のシナリオは、台風15号に匹敵する超大型台風が関東に上陸。その影響で多摩川、荒川の両河川が氾濫し、ガバナステーションがいくつも停止したことで、約6万件にも及ぶ都市ガス供給が停止したというものだ。

地震と風水害時の違いについて、同社担当者は「地震と異なり、台風や水害は起こる前から考えることができる」と説明。台風特有の事前策として、安全な機器の使用方法の周知や、ガバナステーションなどガス設備の浸水対策、LNG船の配船日程の調整などを実施する。また新型エネファームの設置宅には、搭載されている停電時起動機能を知らせるメッセージをSNSなどで周知するという。

さらにコロナ対策として、衛生資材の事前確保のほか、緊急要員の宿泊施設では密を回避するために個室を選択。またメディア向けにはウェブ会議を用いた会見を開くなどして、ソーシャルディスタンスの確保に努める。

同社は風水害対応の難しさについて「地震時と本質的にやることは変わらないが、ガス供給は水が引かないと復旧工事を行うことができない」と指摘。昨年の台風19号襲来で発生した長野県千曲川の氾濫でも、導管に水が入り込んだために長期間にわたりガス供給がストップした地域があった。「昨年の台風15・19号で当社も風水害を経験したが、内田が話していたように、そこまでの知見は持っていない。今後も対策を練っていきたい」と、引き続き議論を進めていく構えだ。 大型災害が毎年頻発する〝ニューノーマル〟の時代にどう対応するか、各社の技量が試されている。