長期戦で非常事態に挑む バックアップ体制強化で供給維持

2020年10月4日

【発電所編/JERA】

東京湾岸地域に立地するJERA・川崎火力発電所は、首都圏や京浜工業地帯にとって欠かせない存在だ。1961年に運転を開始して以降、時代ごとの最新技術を積極的に取り入れながら、需要家の元に安定した電気を供給し続けている。

17年にリプレース工事を終え、現在は燃焼温度1500℃級ガスタービンを備えたMACC発電設備(50万kW)4基と、同1600℃級のMACCⅡ(71万kW)の2基で構成され、総出力は342万kWにのぼる。発電効率はMACCが58%、MACCⅡが61%と世界最高水準の発電効率を有し、首都圏や工業地帯の電力供給の一翼を担っている。

世界最高クラスの発電設備が安定供給を支える

また、コンバインドサイクル発電により、ガスタービンから出た排ガスの余熱で作られた蒸気はタービン発電機に利用される。その一方で、近隣にある千鳥・夜光コンビナート地区の工場9社に蒸気供給も行っている。電気のみならず、熱供給の拠点としても同発電所の果たす役割は大きい。

そうした中、今年2月頃から日本で新型コロナウイルスの感染が広がり始める。「大変な状況だが、おそらく数カ月程度で落ち着くだろうと考えていました」。木村修一所長は当時をこう振り返る。

手順書で作業を共有 テレワーク率7割に

しかし、この認識は程なくして覆される。発電所を訪れた安全衛生委員会の専門医の見立てでは「この事態は年間レベルで続く」とのこと。この言葉を受け、同発電所では、「長期戦を覚悟」(木村所長)した対策に乗り出した。

最も重視したのが、安定供給の要ともいえる現場の当直員への対応だ。事務所内では、当直員と日勤者との動線を分け、お互いの接触を最少化。食事などの専用スペースの確保をはじめ、更衣室やトイレなども日勤者とは別の場所を用意した。

また、通勤にも配慮した。発電所は最寄りの川崎駅から離れており、バスでの通勤が基本だ。以前から実施している時差通勤やフレックスタイム制に加え、バスの車内混雑を避けるため、当直員は自家用車やタクシーを使って通勤している。

感染拡大後の事業継続に向けた対策も重要だ。当直員の勤務体制は4人で1班を構成し、4班が2交代勤務でプラントを運用している。この中で感染者、もしくは感染の疑いがある当直員が出た場合、その班のメンバーは全員在宅勤務に移行。代わりに、川崎火力の当直の経験がある日勤者で構成したバックアップ班を3班整えた。

プラントの運用には、当直員の現場経験が何よりも生かされる。そこで、今はほかの発電所に勤務する社員の中から、川崎火力での当直経験者を選抜し、バックアップ班を構成する体制も整備した。このように、発電所間でも連携し、二重三重でバックアップする体制を取っている。

感染症対策に取り組む中央操作室の様子

一方、業務の共有化も積極的に進めてきた。その一例が発注業務だ。火力発電所では、窒素酸化物を除去するため、排ガスにアンモニアを注入している。そのアンモニアの発注量を決める際、現場担当者がプラントの発電実績に基づいて発注量を決めている。

木村所長は、「これまでは個人単位で業務を行っていましたが、各作業の手順書を作成しました」と説明する。これにより、細かいノウハウを必要とする作業も、代理の担当者でも業務をスムーズに進められるようになった。

同様に、総務グループや広報グループといった事務系業務の所員にも業務の共有化を拡大。経験のない事態に「本当にできるのか」という不安の声も上がっていたが、徐々に所員にも共有化が定着していった。

その結果、所員70人のうち約半数の在宅勤務を実現。さらに、この効果は緊急事態宣言の発令直後に如実に表れ、現場作業が多い発電所という職場環境ながら、テレワーク実施率約70%という高水準を達成した。

需給構造の変化に対応 運用性をさらに向上へ

取材した9月上旬、発電所の稼働率は、昨年の同時期と比べて若干低下したものの、発電機を起動停止して出力を調整するまでには至らず、例年ベースでの運用が続いている。また、近隣の工場への蒸気供給量は各社の事業活動の縮小が影響し、1割程度低下している状況だ。

一方、コロナ対策以外にも、エネルギー業界全体を取り巻く環境の変化により、その対応にも迫られている。再生可能エネルギーの普及により需給構造が変わったことで、従来のベースロード運転から太陽光発電の発電量に応じて出力を抑制するケースが増えてきた。

つまり、プラントが保有する最高の出力や効率で発電所を運用する方式から、出力幅を広く取り、需給の変化に応じ、運用性をさらに向上させる方式へとかじを切る時期に来ている。

そうした中、木村所長は「経済面や環境面、安定供給において、電気を使っていただけるお客さまの役に立てることが第一にあります」と決意を新たにする。エネルギーを安全、安価で安定的にお届けする――。同社が掲げる思いは、非常事態にあっても揺らぐことはない。

コロナ禍の長期戦に挑む木村所長