サプライチェーンの中核施設 「見えない敵」から基地を守る

2020年10月4日

【ガス設備編/国際石油開発帝石】

国際石油開発帝石(インペックス)は、「グローバルガスバリューチェーンの構築」を中長期的な目標の一つとして掲げている。天然ガスの「生産」から「液化」「海上輸送」「気化」「供給」までを同社が一貫して行うことを目指すものだ。

インペックスは2012年、豪州ダーウィン沖でLNGプラントの建設を開始した。「イクシス」と名付けられたこのプロジェクトでは、同社が日本企業として初めて大型LNG生産プラントをオペレーターとして運営する。年間約890万tのLNGを生産。そのうち約7割を日本バイヤー向けに輸送する。

「天然ガス供給の誇りと責任があります」と田中所長

18年10月、イクシスで生産されたLNGを運ぶ初の輸送船が、直江津LNG基地に着岸。生産から供給まで、全てをインペックスが行うサプライチェーンが構築された。

直江津LNG基地は、同社初のLNG受入基地として13年12月に操業を開始。海上輸送されたLNGを気化する役割を担うが、ここはサプライチェーンを構成する要の施設でもある。
インペックスが権益を持つ海外プロジェクトなどで生産された天然ガスは、液化されて海上輸送で直江津LNG基地に集まる。
そして、ここで気化された製品ガスがパイプラインを通じて、関東甲信越一都八県の家庭や企業などに供給されていく。直江津LNG基地は、サプライチェーンに欠かせない中核施設なのである。

感染拡大で対策本部 オペレーターを離隔

その直江津LNG基地を、「見えない敵」が脅かすようになった。今年3月に入り、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大。政府は4月7日、緊急事態宣言を発令した。直江津LNG基地では、感染拡大への移行期に入った旨の政府発表を受け、既に2月下旬に対策本部を設置。作業員らの感染を防ぐ体制づくりを急いだ。

まず、田中敏博所長らが最も注力したのは、基地の全ての機器を監視・操作を行う中央操作室で作業するオペレーターを感染から守ることだ。オペレーターは交代要員を含め全14人。一直3人の4直体制で24時間、監視・操作に当たっている。もし3人のうち1人が感染すれば、その班は作業ができなくなる。さらにほかの班のオペレーターにも感染すれば、基地機能はまひすることになりかねない。

基本となる対応は新型インフルエンザ発生を想定した事業継続基本計画書を適用したが、経験値がない中での細かな対策は「基本的に皆で知恵を出し合い、より良いことを模索しながら進めるしかなかった」(田中所長)。

まず、オペレーターとほかの社員らとの接触を極力、避けるようにした。中央操作室での勤務を終えると、次の班と引き継ぎの話し合いを行う。今まではテーブルを囲んで行っていたが、オンラインでの会話にした。

また、オペレーター専用のトイレを指定し、ロッカーなども新たに専用品を設置。基地内でオペレーターが通る動線を決め、そのエリアはほかの作業員らが立ち入らないようにもした。
さらに、基地を離れてからの感染にも留意。社員寮や社宅に住んでいるオペレーターは、寮生や家族から感染することもあり得る。それを防ぐため、専用のウィークリーマンションを確保。そこに単身で入ってもらうことにした。

こういった対策が奏功し、直江津LNG基地の社員、協力会社の関係者などから感染者は出ていない。しかし、田中所長は「まだするべきことがあります」と言う。LNG船が着岸すると、陸側の荷役関係者らが乗船して船員と協働で作業を進めるが、ここでの感染も考えられる。乗船せずに電話や無線を使って、船員らと非接触で荷役ができないか検討し、現在非接触荷役を実践している。

また、災害など緊急時の対応も課題だ。「社員の多くが在宅勤務をしているが、基地は動いている。万一の緊急時も的確な対応を取らなければならず、訓練で対応のレベルを上げていく」(田中所長)

新型コロナは今後、冬に向けて再び感染拡大も考えられる。「われわれには、社会に欠かせない天然ガスを供給しているという誇りと責任があります。それを忘れずに、対策を講じながらコロナに負けないで基地を運営していきます」。田中所長はこう力を込めた。