【コラム/9月7日】収束なくして回復なし〜受忍し、この機に経済運営変更を

2020年9月7日

飯倉穣/エコノミスト

1、新型コロナが、内外経済に与えた影響が示された。「GDP年27.8%減 戦後最悪 緊急事態宣言経済直撃4〜6月期」(朝日夕2020年8月17日)、「GDPマイナス27.8% 戦後最大の下げ 4〜6月実質年率 コロナで自粛打撃」(日経夕同)。

四半期ベースでみると、前期比GDP△7.8%(41兆円減)、民間消費△8.2%(23.8兆円減)、輸出△18.5%(16.2兆円減)である。落ち込みは、経済変動論に沿った推移と言える。感染現況から暫くこの低下水準が継続しそうだ。当面受忍を強いられ、適応が課題である。そしてコロナ収束後の脱出の展望が求められる。今後の方向を考える。

2、現経済の状況はどうか。新型コロナという天然現象は、自然リスク最小化模索の人工経済の脆弱性を呼起した。グローバル化や市場重視の新自由主義の取柄を低下させ、弱点を際立たせた。各国は、グローバル化・自由貿易第一でなく、まず自国経済第一を確認した。悪夢から覚めた人々の行動は、浮かれ経済を変えつつある。ある意味で「花見酒」経済の終焉である。収束迄、需要収縮で厳しい状況が継続する。

3、今後の展開はどうか。コロナ下の賢明な行動自粛は、サービス産業を直撃している。中小零細の自営業の休・廃業を招来する。大企業も、アベノミクスの財政・金融現象で得た蓄積(全産業純資産比率11年38.6%⇒18年43.5%)を費消し、縮小均衡でリストラを余儀なくされる。適応過程で多くの失業者、失職者を生起する。一般的にはGDP40兆円減なら約400万人以上の雇用調整となる。

影響を受ける業種、働く人は、時間消費関連つまりサービス産業関係である。サービス産業動向調査(18年)で直撃事業を拾うと、運輸業(一般乗用旅客自動車運送業、航空運輸業)、物品賃貸業(自動車賃貸業)、宿泊業・飲食サービス業(宿泊業、飲食店)、生活関連サービス業(その他生活関連サービス業:旅行業・冠婚葬祭業、娯楽業)等である。産業規模は、売上で71兆円、従事者760万人(うち非正規577万人)である。これまで所謂「構造調整・改革」の雇用調整の受け皿であった。これに小売・輸出関連産業等が続く。

市場経済の就業は各人の必死の生き様任せとなる。今新産業創出の雇用増は期待できない。最低賃金でもどこでも稼ぐ姿勢が問われる。縁者を頼るもよし、不本意でも働き口を見つけるのもよし、研修生でも海外でもよしである。

4、コロナ後を見据えた中期はどうか。経済運営の変更が必要である。自然経済時代は、天然・自然現象への備えが何時も課題であった。天災による経済ショック対応は、旧約聖書創世期第41章「エジプト王パロの夢とその実現」が参考となる。自然経済時代の経済変動の姿を伝える。7頭の牝牛と7つの穂の話である。ヨセフは予言する。7年の豊作継続後、7年の飢饉到来である。そして豊作時作物の5分の1を貯えることを進言する。夢解き通りの推移が、備えの大切さを教える。聖書の話は、飢饉終了なくして解決策なし、事前の備えこそ対策と説く。

日本なら二宮尊徳「勤・倹・譲・分度」の倹(蓄えのための倹約)であろう。分限度合に徹した生活と変への備えを大事にする。政府推奨の合言葉「貯蓄から投資・消費へ」は、この精神を軽視する。

5、平成バブル崩壊以降、日本は針路を見いだせず、米国流経済運営の押付・模倣となった。グローバル化の下で、新自由主義(市場崇拝)、資本・株主第一、フロー(利益)重視の企業経営効率化、人件費の変動費化(雇用の流動化・不安定化=非正規)を進めてきた。そして資本の論理を翳した金亡者のゼロサムゲームが横行する。株主利益重視・蓄積資本の社外分配促進は、蓄えや雇用を軽視する。

今回のコロナ異変は、企業存続・雇用維持で含み資産経営や内部留保蓄積が理に適っていることを示している。今後の経済運営は、米中摩擦、温暖化防止、技術革新停滞を念頭に置きつつ、「雇用とセキュリテイ」を理念とすべきである。新自由主義市場経済運営の修正である。雇用第一、企業の低収益・安定容認、株式の確定利付債券的見方が基本である。 コロナ対策と経済の両立が謳われている。収束なくして回復なしである。飢える人への食料供与以外に良策は無く、現代科学が感染を終了させることを期待したい。何時でも合理的・理知的・利潤追求の企業行動こそ脱出への道である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。