【コラム/8月31日】再生可能エネルギー電源の増大とスマートメータ導入の効果

2020年8月31日

矢島正之・電力中央研究所名誉研究アドバイザー

低炭素社会を実現するためには、炭素税や排出量取引の導入のほか、再生可能エネルギー電源の拡大や省エネルギーの促進が鍵を握っている。前者については、FIT(feed-in-tariff )やFIP (feed-in-premium)といった政策支援が講じられている。また、後者については、省エネ法等による規制的手段が採用されてきたが、今後はスマートメータを利用したデマンドレスポンスが期待されている。本コラムでは、低炭素社会実現のための重要な手段である再生可能エネルギー電源の増大がスマートメータの導入により可能となるデマンドレスポンスに与える影響について考えてみたい。

わが国では、スマートメータの導入が進み、電力各社は2022〜2024年には全戸に設置を完了させる予定である。スマートメータの導入により、電力消費の「見える化」が可能になるが、これが実際の消費削減行動に結びつくかは疑問である。電力は「普段意識していない財」である。電力消費が「見える化」された当初は、消費行動の変化はあっても、やがては消費削減意識も薄れていく可能性がある。また、ピークシフトやピークカットを動機づけるために、リアルタイム料金を適用し、需要家に電力の使用パターンを変化させるデマンドレスポンスが期待されている。ところが、再生可能エネルギー電源が大量導入された場合、デマンドレスポンスの効果は大きく減ずる可能性がある。

政策的な支援で再生可能エネルギー電源が飛躍的に増大しているドイツでは、卸の価格が低迷する一方で、同電源支援のための公課や系統増強のための費用の増大で、電気料金に占めるエネルギーコスト(電力調達コスト)のシェアが小さくなってきている。同国の2019年における家庭用電気料金の構成は、エネルギーコスト(小売の運営コストと利益を含む)25%、ネットワークコスト23%、租税公課52%である。エネルギーコストの電気料金全体に占める割合は1/4に過ぎず、エネルギーコストが低減しても、電気料金は高止まったままだろう。

ドイツでは、再生可能エネルギー電源からの発電量の総発電電力量に占めるシェアは、2020年1月現在42%であるが、政府目標では2050年には80%を占めることになる。そのような場合には、卸電力の価格は一層下落していくだろう。このことは、電気料金がほとんどエネルギーコスト以外の削減不可能な要素によって占められることを意味している。負荷シフトをしてもエネルギーコスト以外の費用が相変わらず重くのしかかってくるのであれば、負荷シフトのインセンティブは大きく減じることになるのではないか。また、ピークカットにしても、家庭の生活スタイルを大きく変えてまで消費の削減をすることは現実的とは思われない。 以上のことから、とくに再生可能エネルギー電源が大量導入される場合、スマートメータ導入の効果を発揮させるためには、「見える化」やリアルタイム料金だけでは十分でなく、一層革新的なプロダクトが求められているといえるだろう。そのさい鍵を握るのは、スマートメータを利用して太陽光発電や蓄電池などの機器を自動制御するエネルギー自立支援システムではないだろうか。電力会社のイノベーション能力に期待したいところだ。

【プロフィール】国際基督教大学大学院行政学研究科卒。博士(行政学)。1970年、電力中央研究所入所、理事待遇、首席研究員を経て2009年より研究顧問。2010〜2011年度、学習院大学経済学部経済学科特別客員教授。2012年度、慶応義塾大学大学院商学研究科特別招聘教授。公益事業学会理事、国際公共経済学会理事。専門分野は公益事業論、電気事業経営論。