地方創生時代の新たな役割 求められる自治体との連携強化

2020年11月3日

人口減少や少子高齢化など、地方自治体の多くがさまざまな課題を抱えている。
地方創生や地域活性化が求められる中、地元密着型企業の果たす役割は大きい。
エネルギー自由化時代の今こそ、地方都市ガスは新たな事業展開を求められている。

全国に約200社を数える都市ガス事業者。地域密着型かつ顧客接点の多い事業形態を武器に、都市ガスの販売を中心に地域のエネルギー供給の一翼を担ってきた。

ここ数年、都市ガス事業を取り巻く環境は急速に変化している。世界では脱炭素化の流れが加速。例年のように全国各地で起こる自然災害は激甚化の様相だ。また、新型コロナウイルス感染症により、人々の暮らしや経済活動の在り方も変わりつつある。

そして何より大きな出来事が小売り全面自由化だ。家庭用などの小口需要はこれまで地方都市ガスの地域独占となっていたが、地域や業種を問わず、さまざまな事業者の参入が可能になった。

一方、2019年版中小企業白書によると、日本の人口は08年をピークに11年以降は減少が続く。将来的にもこの傾向は変わらない見込みであることから、今後のガス需要は、家庭用を中心に頭打ちになることが予想される。ガスの販売に加えて、将来にわたって持続可能なビジネスモデルへの転換が求められている。

事業転換への新たな挑戦 地域と連携した取り組み

こうした中、事業転換に向けた新たな挑戦が始まっている。その一つが地域と一体となった電力事業の取り組みだ。

小田原ガスは、地域電力会社「湘南電力」を設立。地元の再生可能エネルギーを電源として活用し、神奈川県内の需要家に電力を供給する。収益の一部をパートナー企業に還元することで地域内での資金循環の仕組みを確立している。また、一般家庭を対象に太陽光発電(PV)パネルを無償で設置し、10年後には無償譲渡する事業も展開する。

鳥取ガスは、鳥取市との共同出資により「とっとり市民電力」を設立し、全面自由化の前から電力事業に参入した。自治体の防災対策に役立てるため、可搬式蓄電池を導入。市内の避難所で融通して使う「共助」の仕組み作りに一役買っている。また、地域の再エネ電源を「見える化」するシステムを構築。電源開発による雇用創出などにつなげていくほか、地元の小学校での出前授業に活用するなど、自治体の業務を一部補完する役割を果たしている。

鳥取ガスの出前授業の様子

東日本大震災からの復興に向けた街づくりに関わる事業者もいる。釜石ガスは、釜石市が進める震災後のスマートコミュニティ計画に参画。公共施設や復興住宅向けに、PVや蓄電池、エネファームなどのレジリエンスに貢献する設備の導入やエネルギーの集中管理システムの運用を行っている。

国の研究会がスタート 地方ガス会社も焦点に

資源エネルギー庁はこのほど、50年以降を見据えた中長期的視点で、今後の都市ガス事業の論点と方策を多角的に検討する「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」(座長=山内弘隆・一橋大学大学院特任教授)を設置した。

主な検討課題は、①サステナブルな社会に向けた低炭素化・脱炭素化、②安心・安全な社会に向けたレジリエンス強化、③安定供給継続・事業継続に向けた経営基盤の強化―の3点。今後行われるエネルギー基本計画の見直しにも関わる重要なテーマだ。

エネ庁では10年に「低炭素社会におけるガス事業の在り方に関する検討会」を立ち上げ、天然ガスシフトなどの検討を行った経緯がある。

今回新たに加わった「レジリエンス強化」や「経営基盤の強化」は、地域や自治体との連携、人口減少化での対策といった地方こそが抱える問題として、中小も対応していかねばならない。そうした意味では、地方ガスの課題に焦点を当てた、エネ庁にとっても新たな挑戦となる研究会といえる。

最大の課題は、大手や先進的に取り組む中小だけではなく、全国の事業者に取り組みの裾野を広く展開していくことだ。だが、一社単独で取り組むには、資金力や人材などに余裕がなければ、新たな事業への一歩は踏み出せない。

ガス市場整備室の下堀友数室長は今後の地方ガス会社の取り組みについて、「企業同士が連携して対応していくことが必要になる」と話す。

先進事例では、東京ガスグループの東京ガスエンジニアリングソリューションズが西部ガスグループと連携。地元食品工場に新型コージェネレーションの導入とエネルギーマネジメントサービスを開始した。こうした流れを中小にも拡充し、新型機器の導入、あるいは保安業務を複数の事業者で行うことで、業務の効率化や人材不足の解決にもつなげられる。

かねて地域密着型で事業を行ってきた地方ガス会社にとって、需要家の信頼を得ている点は最大の強みとなる。需要家ニーズに沿ったサービス作り、自治体連携による防災による貢献は、地方ガス会社の新たな役割となっていく。