地元密着で信頼される電力会社に 「地域貢献」に向けた事業を展開

2020年11月3日

【鳥取ガス】

鳥取ガスは、鳥取市との共同出資で「とっとり市民電力」を設立し、2015年から電力小売り事業を行っている。設立以降、経営状況は良好だ。5年連続の増収増益で、需要家数も年々伸びている。

設立当初は、市の所有する公共施設などへの高圧需要を中心に電力供給を開始。16年からは家庭用低圧電気サービス「とりガス電気(現エネトピアでんき)」をラインアップし、鳥取ガスやLPガス販売を行う鳥取ガス産業を取次店として、都市ガスやLPガスの供給エリアで営業活動を展開してきた。その結果、ガスの既存顧客を中心に、一般家庭の契約者も徐々に増えている。

料金メニューは、特別な付加サービスなどはなく、いたってシンプルなもの。だが、地域に根差した企業と自治体という地元密着型の電力会社という点において、需要家からは「安心感がある」などの信頼の声が寄せられている。

可搬式蓄電池を寄贈 「共助」体制の構築へ

自治体とのコラボならではの視点から、「地域貢献」につながる事業に特徴がある。その一つが、防災に向けた取り組みだ。

同社は今年8月、避難所などの停電対応用としてポータブルタイプの蓄電池(容量1kW時)50台を鳥取市に寄贈した。重さは約11㎏と、女性でも持ち運びが可能。1台で100台程度のスマートフォンの充電ができる。災害時には、避難所での照明やスマートフォンの充電などの電源として活用される予定だ。

定置式ではなく、あえてポータブルタイプを採用したのには理由がある。「被災していない地域の蓄電池を被災地の避難所に運んで集めれば、大型の定置式蓄電池に匹敵する使い方が可能です」。とっとり市民電力の大谷保雄部長はこう説明する。

鳥取市にポータブル式蓄電池を寄贈した

近年の災害は多発化、激甚化しており、行政による「公助」だけでは対応し切れないケースが出ている。そこで重要となるのが、地域のコミュニティーで相互に助け合う「共助」の取り組みだ。今回の蓄電池の導入は、可搬性という特徴を生かすことで、電源が必要な避難所に蓄電池を集積して使用できる。全50台の蓄電池を地域間で融通し合う「共助」体制を構築するというわけだ。

次に、電源開発では、エネルギーの地産地消を目指している。地域の再生可能エネルギーを最大限活用し地域内で消費することで、地域内経済循環や地方創生、雇用の確保といった地域貢献につなげるのが狙いだ。地域の発電事業者から調達するほか、「秋里下水処理場バイオマス発電所」(出力200kW)など、自社開発も行っている。

自社開発した「秋里下水処理場バイオマス発電所」

現在は、再エネ電源として太陽光、バイオマス、小水力を確保。需要家がこれらの電源をどのように使っているかを「見える化」するサービスも展開する。専用サイトを使い、電気の使用量において、再エネ電源種がそれぞれどの程度占めているのかをグラフで表示。グラフ上の電源をクリックすると、供給先の発電所を特定することもできる。

このシステム構築に向けては、鳥取市や鳥取大学、地元企業など5団体で産学官連携によるコンソーシアム「Re:visible(アールイー:ビジブル)」を結成。環境省や鳥取県の補助金を活用し、ブロックチェーン技術を利用した「電源トレーサビリティシステム」を開発し、地域内外への鳥取産再エネのPRなどにつなげていく。

今年度は、市内の小学校10校で同システムを活用し、「自分が使っている電気」をテーマにした出前授業を計画中だ。あいにく新型コロナウイルスの影響で中止となる学校もあったが、4校での授業を実施する。

小学校での出前授業の様子

オール電化も提案 需要開拓のチャンス拡大

一方、昨今のコロナ禍は、鳥取ガスのガス販売にも影響している。鳥取県の経済をけん引する観光業で、飲食店やホテルが休業や閉店に追い込まれるケースが相次いでいる。

経営企画グループの森田裕一部長によると、「家庭用の販売量は、いわゆる巣ごもりによる給湯・厨房需要の増加により数%程度増えているが、商業用では2、3割ほどの減少になっている」という。特に、飲食産業では需要期となる年末年始にかけてガス販売のさらなる落ち込みが予想される。

こうした中、鳥取ガスでは複数の物件を所有するオーナーなどへの営業、油からガスへの燃料転換といった機会を逃さず、販売量の確保を図っていく。

一方、電力事業への参入によって新たな需要開拓のチャンスが広がりを見せている。鳥取ガスの児嶋太一社長は、「ガスと電気を合わせてお客さまに最適な提案を心掛けており、必要であればオール電化もお薦めします。提案できるプランや商材が増え、ガスから電気への切り替えなどにも対応しています」と話す。

今年のガス展(ウェブ・電話受付で実施)ではIHやエコキュートも取り扱い、ガス、電気の枠にとらわれない総合的な提案を行う。

7月には鳥取ガス産業が島根県内で初となる松江市に営業所を開設。11月からは、鳥取ガスの電力サービス「エネトピアでんき」の新CMの放映や、地元への訴求力の高いケーブルテレビや市庁舎内のモニターでの放映を開始する。サービスエリアの拡大とともに、電力事業のさらなる認知度向上も図りながら、総合エネルギー企業として山陰地方での存在感を高めていく構えだ。