システムの分散化と強靭化に活路 地方ガスの新たな役割とは

2020年11月4日

インタビュー:山内弘隆/一橋大学大学院経営管理研究科特任教授

脱炭素社会に向けた世界の潮流は、都市ガス会社も到底避けて通れない。むしろ、新時代のエネルギーシステム構築の担い手となることが期待される。

やまうち・ひろたか 1955年千葉県生まれ。慶大大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。98年から2019年まで一橋大商学部教授。現在、一橋大名誉教授、同大大学院特任教授を務める。

――「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」では、どのような議論がされるのでしょうか。

山内 脱炭素化の実現に向け、電源の非化石化を前提とした電化が進められようとしている中で、炭素エネルギーであるガスを扱う都市ガス会社が、どのようなポジションで存続していくべきかが大きな課題となっています。エネルギー転換・脱炭素化を実現するまでの過渡期のエネルギーとして、また、地域のレジリエンス強化に資するエネルギーとしてまだまだガスの役割は大きい。

 一方で、50年に向けては国の政策や社会構造の変化、水素やメタネーションといった技術革新がどのようなロードマップで実現できるかなど、不確実な面が多く、それらを踏まえながらさまざまなシナリオを考えていかなければなりません。

――在り方研の議論は、次期エネルギー基本計画の策定にどう反映されるのでしょうか。

山内 エネルギーミックス(電源構成)は、原子力や石炭政策がまず前提にあり、ガスの存在はあいまいなものになりがちです。前回までのエネ基の議論では、熱利用や水素関連技術も含め十分な議論がなされたとは言えません。ガス市場整備室としてはもっと早くに在り方研の議論を始めたかったと聞いていますが、エネ基としっかり連携させることができるギリギリのタイミングで始められたことは、良かったと思います。

――人口減によって地方ガスの経営は一層厳しいものになりそうです。ガス会社の地域社会における役割についてどうお考えですか。

山内 地方のエネルギー供給システムの分散化が進む中で、それをどう担っていくかに、一つの地方ガスの生き残りの道があるのではないでしょうか。

 大手電力会社よりも地域に密着した事業を展開していることを強みに、地方自治体によるレジリエンスや脱炭素化の取り組みに主体的にかかわり、熱利用を含めた地域分散型のエネルギー供給システムを構築する―。そのためには、自社だけでは技術や資本面で賄えない部分もあるでしょう。そこに、大手ガス会社やIoT企業など他業種とのいろいろな連携が生まれると思います。

デジタル技術を活用した 新サービス創出に期待

――デジタル技術を活用した新たなサービスモデルの創出も、経営基盤の強化に欠かせません。

山内 ほかの産業と同様、エネルギーの分野でもデジタル技術の活用は、業務効率化や新サービスの創出など次の事業展開を考える上で大きな要素となります。例えば、ガスのスマートメーター化が実現すれば、そこから得られるデータを基にした新たなサービスが生まれるでしょう。また、新型コロナウイルス禍を契機に生活様式が変わり、エネルギーの使われ方が変わる可能性があります。そうした変化に向けてどのような手を打ち出すのか、各社の取り組みに期待しています。