見直されるLPガスの優位性 災害・感染症対策に向けた役割

2020年12月4日

ここ数年、自然災害は激甚化する傾向にあり、さらにコロナ禍への対応も必要とされる。これまで、災害時のエネルギー供給の維持や早期復旧に貢献してきたLPガス。その特長や優位性を改めて見直し、昨今の状況下での新たな役割が求められている。

今年7月初旬、梅雨前線の停滞により、九州地方を中心に記録的な大雨に見舞われた。中でも熊本県は、南部を中心に甚大な被害を受けた。

県内のLPガス需要家の被害件数は10月31日現在、3705件で、このうち1823件の復旧が完了。残り1882件のうち、復旧可能な住宅1087件については、避難所や仮設住宅から需要家が家に帰還するタイミングで復旧作業を進め、順次ガスの供給を再開していく予定だ。

ボンベ収納庫では流れ込んだ土砂のかき出しが行われた

被災地の一つである人吉市では球磨川沿いの市街地が広範囲にわたり浸水。市内にある、15社のLPガス販売店と4カ所の充塡所のうち、販売店では5社が全壊し、3社が半壊した。また、充塡所は2カ所が浸水により使用できなくなった。

今回のような水害の場合、浸水したボンベは中に水や泥が入っている可能性があり、使用ができない。そこで、復旧作業の際、LPガス事業者は、需要家の家を一軒ずつ回り、ボンベやメーターなどの機器の確認をした上で、ガスの供給を再開する。安全性を確保する上でも、需要家に使用しないよう注意喚起を行うのも重要な役割だ。

だが、今回の水害では、社屋に浸水して顧客データや帳簿類が使えなくなるケースや、車両が水没して需要家の元に駆け付けられないケース、また球磨村では販売店の建物自体が水に流されるなど、事業者が被災者になり、対応できない事例が相次いだ。

「共助」の組織間連携 地域の防災力向上に

一方、熊本地震を教訓にした対策が水害に奏功した例もあった。「地震後に転倒防止の対策をしていた結果、今回の水害時にも容器の流出を防ぐ上で効果がありました」。熊本県LPガス協会の岡村英治専務理事はこう話す。

同協会では、地震の揺れによる容器の転倒を防ぐため、容器チェーンの二重掛けを行うとともに、転倒によるガスの噴出を防ぐため、ガス放出防止型高圧ホースの取り付けを進めてきた。「今後は、この転倒・流出防止対策を全世帯に広げるとともに、電話がつながらない際の通信手段を確保するため、LINEの活用を進めていく」(岡村専務)という。

また、過去の災害を教訓に組織された「共助」の仕組みも生かされた。同協会では九州北部豪雨をきっかけとして、2014年に県内の販売事業者で構成する緊急支援体制「チームLPG」を発足している。県内を16ブロックに分け、ブロックごとに7~27人で構成。災害発生時、被害の軽微なブロックから被災地に人員を派遣し、復旧活動を行う仕組みだ。

復旧支援を行う「チームLPG」

16年の熊本地震では甚大な被害を受けた益城町に出動し、復旧活動を行った。2回目となった今回は、流出したボンベを土砂から掘り起こすなど、多くの人員を必要とする作業に当たった。

このほか、全国47都道府県にあるLPガス協会では、地方自治体との防災協定締結を推進中だ。秋田県LPガス協会では、自治体や自衛隊との防災訓練を行う機会を増やしている。資源エネルギー庁石油流通課の橋爪優文企画官は「公的機関との交流の機会が増えることで、地域の防災能力を高められます」と話す。

非ネットワーク型の特性 集合住宅に導入の余地

LPガスはこれまでも「分散型」のメリットを生かし、災害時のエネルギー供給の維持や早期復旧に活躍してきた。とはいえ、ここ数年、災害が激甚化し、かつ被災地が日本各地に及ぶ。

エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏は「ネットワークが毀損した際の供給途絶が起こらない点が、分散型の大きなメリットです」と指摘する。非ネットワーク型かつ需要家の元にエネルギー供給源がある点に注目すれば、昨今の状況下にこそ、LPガスが貢献できる余地はあるという。

ポイントとなるのが避難所の在り方が変化したことだ。昨今の災害では、激甚化により早期の避難が求められ、復旧にも時間を要するようになった。それにより、避難所での滞在時間は長期化する傾向にあり、照明やスマートフォンの充電、炊き出しといった最低限の生活機能に加え、熱中症などの疾病防止に向けた空調、衣類の洗濯・乾燥機を含む、生活全般を支える機器や設備の整備が必要とされる。

また、コロナ禍により、避難所の三密回避のため、学校や公民館に加え、旅館・ホテルなどの宿泊施設やコインランドリー、親戚や友人宅、在宅避難による自宅など、避難先は多様化している。

こうした中、LPガスを供給源とする非常用発電機の導入先として、集合住宅が挙げられる。例えば、分譲マンションでは、LPガスと非常用発電機を導入して理事会で所有し、その設置コストと基本料金を共益費で賄うスキームが考えられる。これにより、停電時には非常用発電機からの電力を供給し、給水ポンプを稼働させることで飲料水やトイレの水が確保でき、在宅避難が可能になる。

また、停電により自宅の洗濯機が使えない時間が長くなる場合、衣類の洗濯・乾燥も問題だ。そこで、LPガスと発電機に併せ、共用部に洗濯乾燥機を設置することで、平常時には従来のコインランドリーと同様に課金して使用しながら、災害時にも利用できる。

集合住宅では新たな設備を導入する際、新築の設計に盛り込まなければならないケースが出てくる。だが、前出のLPガス設備は、場所や費用などが確保できれば既築にも設置が可能で、導入のポテンシャルは大きい。災害時を含め、LPガスの活躍の場はますます広がりそうだ。