【北海道電力 藤井社長】地域との「共創」で脱炭素社会の実現と経済の発展に貢献する

2020年12月2日

持続的な成長へ 経営ビジョンを策定

志賀 今年4月に「ほくでんグループ経営ビジョン2030」を策定しました。改めてその背景とポイントを教えてください。

藤井 今年4月からスタートした分社化による新たな電気事業体制や競争の激化、低炭素化や技術の進展などの経営環境の変化に対応すべく、当社は2030年における目指す姿として、「ほくでんグループ経営ビジョン2030」を策定しました。

 このビジョンにのっとり、ほくでんグループの「人間尊重・地域への寄与・効率的経営」という経営理念の下、ESGをこれまで以上に重視し脱炭素社会の実現へ貢献しつつ、事業の持続的な成長と持続可能な社会の実現に努めていきます。

志賀 経営ビジョンでは、再生可能エネルギーの導入を30万kW以上拡大するという目標を示しています。

石狩湾における洋上風力発電イメージ図

藤井 再エネ事業は、経営ビジョンの中でも重要な経営戦略と位置付けている「事業領域の拡大」の一つであり、道内のほか、国内の他エリア・海外を含め、30年度までに30万kW以上の拡大を目指しています。

 道内では、下川町、当別町において、地域の林産資源を活用した木質バイオマス発電に取り組んでいます。下川町では、未利用間伐材をペレットに加工したものを燃料とする熱電併給プラントを建設し19年5月に営業運転を開始しています。また、当別町では、今年5月に新たな発電設備の建設に着手しています。

 洋上風力については、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」の施行(19年4月1日)を受けて、今後の普及・拡大が期待されており、当社としても、電源の低炭素化や地域資源の有効活用の観点などを踏まえた上で検討を進めていきます。具体的には、有望海域の石狩湾に注目しており、グリーンパワーインベストメント(GPI)と連携協定を締結し、洋上風力発電事業に関する検討を加速しています。

志賀 そのほか、事業領域の拡大に向けてどのように取り組んでいきますか。

藤井 エネルギーに関するお客さまの多様なニーズにお応えし、電気・ガスなどのエネルギー供給を一手に担うことで、「エネルギーのことならほくでん」とお客さまに信頼していただき、総合エネルギー企業として一層の発展につなげていきます。例えば、トータルエネルギーソリューションとしてESP(エネルギーサービスプロバイダ)事業に力を入れています。お客さまは設備面、運用面で初期投資を掛けずに省エネ・高効率機器を導入することができ、また、エネルギー関連設備の効率的な運用と最適な保守管理が可能です。

北海道北広島市に建設中の北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコン フィールド HOKKAIDO」において、当社のESP事業が採用され、ほくでんグループ全体でエネルギー分野のサポートをさせていただくことになりました。具体的には、電気ヒートポンプ機器やガスコージェネレーション設備を設置し、電気や冷温水などのエネルギーをお届けするほか、ICTやAIなどを駆使した省エネ・高効率な設備の運転管理や保守メンテナンスといった設備運用サービスを一括でご提供していきます。

志賀 9月に原子力規制委員会の現地調査が行われましたが、泊発電所の「F―1」断層を巡る審査への対応状況について教えてください。

藤井 泊発電所の新規制基準の適合性審査については、現在残っている主な課題の中でも、発電所敷地内断層の活動性評価を最優先課題に位置付けて対応を進めています。今年9月10、11日の両日にわたる現地調査において、これまでに実施した追加調査の結果などについて実際に現地にてご確認いただき、当社からは地層区分の判断根拠などについて説明しました。

 現在は、原子力規制委員会からいただいたコメントについて整理・検討を進めているところであり、できるだけ早く審査会合において説明し、「(敷地内断層で焦点となっている)F―1断層は、将来活動する可能性のある断層等ではないと評価される」ことについて、原子力規制委員会のご理解を得られるよう取り組んでいきます。

志賀 再稼働時期の見通し、再稼働後の料金値下げについてのお考えは。

藤井 現時点では具体的な見通しを申し上げることはできませんが、残る課題について、できるだけ早く審査会合などで説明し、原子力規制委員会のご理解を得ていきます。再稼働後に電気料金を値下げする考えに変わりはなく、早期再稼働に向け全力で取り組んでいきます。

志賀 道経済発展のためには電力やガスインフラを支える企業同士で連携する必要があります。

藤井 そのことに全く異論はありません。当社は、北海道の持続的な発展に向け、地域と〝共に〟新たな価値を〝創り上げる〟「共創」の考え方に基づき、低炭素化や地域経済の発展への貢献などに取り組んでいきます。将来の北海道のあるべき絵姿に向け、地元に根差す企業同士で協業できるところでは、しっかりと協力していかなければなりません。

北海道経済に貢献し 事業の成長目指す

志賀 地域経済の発展に向けた取り組みとはどのようなものですか。

藤井 当社は、地域経済の発展に貢献するために4つの柱について取り組むこととしています。具体的には、①一次産業の発展に向けた産業電化の推進や、林業・畜産業から生じたバイオマス発電事業への参画、②ものづくりの拡大に向けた電力・ガス供給などのエネルギーサービスや、道内への企業誘致、③観光の振興に向けた道内7空港一体運営への参画や、北海道の魅力の情報発信、④人口減少・高齢化社会への対応としてEVを活用した交通インフラ維持や、「スマート電化」による省エネで快適な暮らしのご提案―などです。

志賀 今後の抱負について、改めてお聞かせください。

藤井 競争の激化、低炭素化や技術の進展などの経営環境の変化に着実に対応していくため、お客さまからのエネルギーに関するさまざまなニーズに対して、幅広く、寄り添った提案をしていくために、引き続き、エネルギーサービスのさらなる多様化を図っていきます。また「エネルギーのことならほくでん」とお客さまから信頼をいただき、地域の皆さまから選ばれ愛される総合エネルギー企業として、お客さまへの感謝の気持ちを常に忘れず、ご期待の一歩先をいくサービスをお届けしていきたいと考えています。

 自然や食、観光などで大きなポテンシャルを有する北海道の持続的な発展に向け、これまで以上にESGを重視するとともに、「北海道の発展こそがほくでんグループの事業基盤になる」との認識の下、グループ一体となって、「共創」の取り組みを全力で進めていきます。

志賀 今後の北海道の発展のため、御社が果たす役割に大いに期待しています。

対談を終えて:これまで工務部畑が中心。春まだ浅い知床での送電鉄塔倒壊事故では現場で早期復旧の指揮を執り、地元の方から「ありがとう」の声を掛けられたことが電力マンの原点となった。電気を通じて社会に貢献したいという思いは、経営トップなった今、北電が掲げる「共創」の経営ポリシーに通じる。都市ガス事業に進出したのも総合エネルギー企業としての競争力の強化で地域貢献を図るのが目的だが、一方で将来の北海道にとって地元に根差す企業同士で協業できるところでは協力するとキッパリ。柔和で懐が深い印象だ。(本誌・志賀正利)

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