既存ビルを含めた面的供給 コンパクトな分散型モデルに

2020年12月30日

【東京都江東区/豊洲スマートエネルギープロジェクト】

新たなビルの完成を機に、エリア一帯で電気と熱の供給体制を構築し、エネルギー面で既存ビルのリプレースを実現した地域がある。東京都江東区にある豊洲駅前だ。

東京メトロ・豊洲駅の地下通路に直結する形で「豊洲ベイサイドクロスタワー」が、2020年3月に完成した。地上36階建ての複合型ビルには、オフィスや商業施設、ホテルが入居する。

豊洲駅前に新たなランドマークが誕生した

三井不動産と東京ガスの共同出資会社である三井不動産TGスマートエナジー(MFTG)は同年4月、ビル内に設置した「豊洲エネルギーセンター」を拠点に電気と熱の供給を開始した。系統電力に加え、中圧ガス導管からの都市ガスを利用したエネルギー設備から電気と熱を供給することにより、非常時の防災性を確保するとともに、平常時の環境性向上を両立する仕組みとなっている。

最大の特長が、既存ビルにも同様のエネルギー供給を行っている点だ。晴海通りを挟んだ向かいにある「豊洲センタービル」(1992年完成)に対して、エネルギーセンターから地下を通る自営線と熱配管を敷設。これにより、新築ビルと同じく、既存のセンタービルでも非常時の供給維持と環境負荷低減が可能になった。

エネルギー設備には、3台のガスエンジンコージェネレーション(2650kW)をはじめ、廃熱ボイラ(1・3t/h)3台、ジェネリンク(1350RT)2台、ターボ冷凍機(1150RT)3台、蒸気ボイラはガス専焼式(3t/h)7台と、ガス・油切り替え式(2t/h)5台を採用した。いずれの機器も大型タイプではなく、小規模タイプを複数台で導入している。

地上階に設置されたガスエンジンコージェネレーション
同じく地上階に設置されたジェネリンク

MFTGの大野智之専務は「需要に応じて稼働台数を変えることで効率的な運用が可能になります。また、万が一、故障した際のリスクも最小限にできます」と説明する。また、プラントは浸水被害に備えて地上階に設置。オフィスや商業施設にプラントの稼働音による影響がないよう、壁や天井には防音対策を施した。

異なる需要構造が混在 最適制御でエネ効率を向上

平常時には、コージェネと系統による電力供給を行いながら、コージェネから発生した廃ガスは廃熱ボイラで蒸気と温水を作り、給湯や暖房に活用。さらに、その蒸気と温水はジェネリンクに投入され冷水が作られ、ターボ冷凍機や蓄熱槽の冷水と併用して冷房に使われる。

一方、非常時には、コージェネが供給の中核を担い、電力は需要の最も多い夏季ピーク時の約50%を賄う体制を整えている。テナント専有部のコンセントには、平常時と同程度の電気を供給し、パソコンや照明、空調などの使用が可能。共用部のエレベーターやトイレなども使えるようになる。

エリア内で需要構造が異なる施設が混在する点に配慮した最適制御もポイントとなる。例えば、電力需要は、オフィスでは平日昼間、商業施設は休日、ホテルは夕方から夜間にかけてピークが来る。そこで、中央監視室では、供給先の電力と熱の需要実績や翌日の天気予報などの情報から需要を予測。コージェネを中心とした機器の運転計画を立て、省エネに資する制御を行っている。

また、コージェネはオフィスの比率が高く、電力需要が多い状況を踏まえ、発電効率48%という高効率タイプを導入した。これにより、電気と熱を合わせたエネルギー効率76%を実現。CO2排出量は約20%削減となる見込みだ。

機器の最適制御を担う中央監視室

今回の豊洲の案件は、MFTGにとって日本橋スマートエネルギープロジェクトに続く第二弾。既存ビル約20棟を含む開発ならではの苦労も経験した。特に、電力設備に関しては、既存ビルが受電する電圧に合わせて供給する必要があり、日本橋では3パターンの電圧に対応している。

また、既存ビルではオフィスなどで使用しながら設備の工事を進めていかねばならない。この際、不動産開発や街づくりなどで需要家とのつながりの深い三井不動産が工事のスケジュール調整といった需要家との合意形成を担当した。

一方、東京ガスは、霞が関エリアにおいて霞が関ビルや特許庁への熱供給事業をはじめ、これまで29社の地域冷暖房会社に出資し、42地点での供給実績がある。こうしたノウハウを生かし、エネルギー供給に関する技術面を全面的に担当した。両社それぞれが長年培ってきた知見があったことで、今回の街づくりが実現した格好だ。

国土交通省は現在、人口減少や高齢化によって地域の活力が低下する状況を踏まえ、地方都市の駅前地域などに都市機能を集約させる「コンパクトシティ」の形成を進めている。地方の都市では、都心部のように大型ビルが複数棟あるケースは少なく、今回の豊洲のように数棟レベルでの比較的小規模な開発が想定される。

その点から豊洲の事例は「コンパクトシティの先鞭として、さまざまな地域に展開できるソリューションになっている」(大野専務)という。
MFTGは今後、他の地域においても各地の特性に合わせたスマートエネルギープロジェクトを展開していく方針だ。