官民連携のレジリエンス事業 エネ自給率を高めた栃木戦略

2021年1月1日

インタビュー/荒川涼(栃木県 環境森林部 環境森林政策課 環境立県戦略室 主査)

東日本大震災の経験を踏まえ、エネルギー自給率を高める戦略を打ち立てている栃木県。清原スマエネは自給率向上にも貢献しているそうだ。

栃木県は独自のエネルギー戦略を打ち出している

栃木県は製造品出荷額等が約9兆2000億円(2019年)と、ものづくりが盛んだ。それだけに産業・運輸部門などでのエネルギー消費量は多い。

にもかかわらず、県内の発電設備はさほど多くなく、05年度のエネルギー自給率は15%にすぎない。実際、東日本大震災の際には2日半もの間停電が発生し、その後も計画停電の対象になるなど、県産業および住民生活に多大な影響が及んだ。そのことから災害対応力を向上させるべく、他県の大規模電源に頼らない、分散型電源による県全体のレジリエンス化を模索していた。

こうした背景から、県はエネルギー安定供給の高度化や省エネ化を図るため「とちぎエネルギー戦略」を14年に策定。栃木県環境森林政策課環境立県戦略室の荒川涼主査は「本戦略ではエネルギーの地産地消、分散化、レジリエンス化など、さまざまな取り組みを掲げています。特に産業部門では分散型エネルギーインフラの導入促進を行うことで、地域のエネルギー利用を高効率に引き上げることも目指してきました」と話す。

官民が強靭化へ連携 SDGsにも大きく貢献

県は今回の清原プロジェクト以前から、当地でエネルギーの高度化利用に向けた構想を描いていた。本構想は総務省が進め、地方公共団体が核となりエネルギーの地産地消を目指す「分散型エネルギーインフラプロジェクト」のマスタープランにも採択されている。

そうした中、本事業では、東京ガスグループも事業の内容を本インフラプロジェクトのマスタープランに沿うよう協力。県も工業団地で操業する需要家に対して今回の事業に参加するよう声掛けを行うなど、官民連携で取り組んだ。

今回の事業について荒川主査は「県のエネルギー自給率・レジリエンス強化に資するだけではなく、省CO2や省エネにも寄与します」と高く評価する。

そこで貢献するのが、都市ガスの導管網だ。栃木県には日立LNG基地から延伸するパイプラインがあり、道中の真岡市には都市ガスを燃料とする真岡火力発電所もある。荒川主査は「エネルギーの分散化を行うには都市ガスは非常に有用なインフラで、エネルギーの多重化はレジリエンス上でも非常に重要です」と話す。

また環境面についても「県内企業の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みの拡大にも役立つ事業で、環境省が掲げる、エネルギーや経済が地域内で循環する『ローカルSDGs』の考え方にも見合うものです。今回のケースはかなり大規模な案件ですが、より小さな規模でもいいので、同様の案件ができるよう、今後も県としても協力したいです」と話しており、第二の清原スマエネ事業に向けても県の期待は高い。

今後の脱炭素社会の構築に向けては官民が連携して取り組みを進めることが求められている。今回のような事例は、こうした世間の流れに沿う画期的なケースだ。

「コージェネによるスマートエネルギーサービスに、再生可能エネルギーを加えた発展型のサービスにも期待をしています。県としてもこのようなプロジェクトに参加する事業者数を増やしたい思いもあります。今回の事例を全国に発信していきます」(荒川主査)