【特集2】天然ガス火力でもゼロエミ化 「オール水素化」を目指す

2021年2月3日

レポート/シーメンス・エナジー

大築康彦・シーメンス・エナジー社長

CO2排出量の少ない天然ガス・LNG火力でも、水素を混ぜて燃やすことでCO2排出削減やゼロエミッション化を図る動きが起き始めている。こうした取り組みの核となるのが、2030年までに自社のガスタービン全製品で100%水素燃焼を可能にするビジョンを打ち立てている、独シーメンス・エナジーだ。

同社は20年9月にシーメンスの火力発電部門が分社化されたことで誕生。同社のガスタービンは大規模火力発電所で利用される60万kWクラスのものから、中規模の火力発電所で使われる5~10万kWクラス、工場の熱源として使われる数千kWクラスの小型のものなど19種類をラインアップしている。これら全製品で、水素専焼を目指している。同社日本法人の大築康彦社長兼CEOは「当社は30年までに全ラインアップでの水素専焼を目標にしていますが、現行の製品でも数十%程度であれば水素を混焼できますし、一部の小型タービンでは水素の専焼も可能です」と説明する。

昨年11月にはドイツ・ライプチヒの地域住民に電気と熱を供給する事業者に向けて、中型タービンのSGT-800(6万2000kW)を2台納入。当面はガス火力として使用されるが、数年後に30~50%の水素を混焼した発電を予定している。長期的には水素専焼による発電も視野に入れて運営されるそうだ。

調整力担う天然ガス火力 政府も水素火力を検討

燃焼時にCO2を排出しない水素は、次世代の燃料として大きな期待が寄せられる一方、普及に向けては多くの壁が立ちはだかる。水素火力を見据えて導入が行われるドイツは日本と同じ経済大国ではあるものの、両国の環境には大きな違いがある。

そもそもドイツは北部には大量の洋上風力発電所が建設されており、再エネ電源が余っている。対して島国の日本は隣国とのインフラ接続がないため、資源国で製造した水素を船で運搬する手法でサプライチェーンを目指すなど、欧州とは異なる形態になることが予想される。大築社長は「両国の状況が異なるとはいえ、欧州で当社は水素に関連した知見を得られています。こうした経験は日本市場でも還元できます」と話している。

日本でも増加する太陽光発電のバックアップとして一定数の火力発電が必要とされ、中でも低炭素の天然ガス火力は脱石炭後の火力発電を担う重要な電源として位置付けられている。政府も水素混焼や専焼の火力発電の実用化に向けた検討を進めている。

「SGT-800は年間30台近い出荷数があり、5万kWクラスの中型タービンの中では競争力を持っている製品だと自負しています。また水素のサプライチェーンが構築できれば天然ガス専焼から水素混焼・専焼に変更できるという強みもあります」(大築社長)。将来の水素社会を支える技術として広くアピールしていく構えだ。

時代の要請に応じて選択の幅を広げるガスタービンは、事業者にとっても大きな武器になりそうだ。