【特集2】研究進むCO2分離・回収 日本の技術には大きな可能性

2021年2月3日

発電側の技術開発とともに鍵を握るのがCCSだ。課題となるコスト削減に向けた展望について中垣隆雄教授に話を聞いた。

インタビュー:中垣隆雄/早稲田大学 理工学術院 教授

中垣なかがき・たかお 1992年3月早大理工学研究科機械工学専攻修了、同年4月東芝入社。研究開発センター、電力社会システム技術開発センターにて新発電システムの研究開発に従事。2007年4月から早稲田大学。12年から現職。

―中垣先生の専門であるCO2の分離・回収技術とは、どのようなものですか。

中垣 分離・回収は「燃焼前回収方式」「燃焼後回収方式」「酸素燃焼方式」の三種類があります。

 まず燃焼前回収方式とは、Jパワー、中国電力などが広島県大崎上島町で行っている大崎クールジェンのように、専用のプラントで石炭をガス化し、ガスタービンで燃焼する前にCO2を回収する方式のことです。酸素燃焼方式は、燃料を燃焼する際に空気ではなく純酸素(O2)を加え、燃焼後に水とCO2を分離するという方式です。

 燃焼後回収方式は、発電所などの排煙からCO2を分離・回収する方法で、アミンというCO2と化学的に反応する特性のある物質がよく利用されています。同方式の中でも、アミンから成る吸収液を使用する「化学吸収法」、アミンを含んだ多孔質セラミック製の材料を使用する「固体吸収法」、特殊な膜でCO2を分離する「膜分離法」の研究が進んでいます。

 それぞれ優れている点、苦手な点はありますが、CO2濃度の高い排煙に強い技術もあれば、低い濃度に強い技術もありますので、利用する現場に合わせて利用していくことになるでしょう。

―CCSの議論では、コストの問題がよく指摘されています。

中垣 海外では大規模なCCS実証がいくつか行われており、1tのCO2回収に約5000~7000円のコストが掛かるとされています。現在はさまざまな企業が性能の高いアミン液を開発していますし、実証が進み一定の技術が確立されれば吸収材のコストは安くなっていくでしょう。とはいえ、技術的な課題をクリアできても、設備の運転コストはどうしても掛かります。そのコストをどう引き下げるかが鍵になります。

既存設備に外付けも可能 可能性秘めた日本の技術

―既設の発電所でCO2の分離・回収を行う場合、どのような課題がありますか。

中垣 燃焼前方式や酸素燃焼方式を行うには、改質器やボイラーなど燃焼器周りの改造が必要になります。しかし、燃焼後回収方式は排煙からCO2を回収する方式なので、既存設備に外付けすることができます。

 化学吸収法や固体吸収法でCO2を分離・回収する場合、分離後のCO2を回収するためにはアミンを加熱しなければならないので、その熱源をどこから集めるのかが課題になります。海外では低圧タービンで発生する蒸気を使用するケースもありました。その場合、低圧タービンの入れ替えが必要となり、発電に使用できる蒸気量が減るので発電効率が落ちてしまいます。CO2分離・回収に必要な熱源確保にも工夫が必要です。

―これらの技術で、日本の強みはあるのでしょうか。

中垣 石炭火力発電所のボイラー、蒸気タービン、発電機など主要な機器を設計・製造できる企業は日本に多くありますし、アミンなど吸収材分野でも技術力は高い水準を誇っています。日本のCO2の分離・回収技術は世界的に見ても秀でており、2015年時点での特許出願件数は世界一です。

 火力発電は、電化が必要な途上国だけでなく先進国でも再生可能エネルギーの調整電源として頼らざるを得ませんし、分離・回収技術は発電所だけではなく、工場など他業種でも応用できます。日本の技術力には大きなポテンシャルがあるのではないでしょうか。