【特集2】脱炭素化と安定供給を両立へ 革新的技術の早期実装目指す

2021年2月3日

日本の電力需要の大半は、今や火力発電によって賄われている。
脱炭素社会を目指しながらも、安定した電力供給は継続しなければならない。
その解決策と期待される「ゼロエミッション火力」実用化への取り組みが始まった。

菅義偉首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」をきっかけに、化石燃料を使う火力発電はその対応に迫られている。言うまでもなく、火力発電所は日本の電力需要の根幹を担う存在だ。そのため、既存の火力発電所の運用を続けながらCO2削減対策を進めていくことは、安定供給と脱炭素化を両立させる上で必要不可欠となってくる。

そこで、注目されるのが、CO2排出を実質ゼロにする仕組みを取り入れた「ゼロエミッション火力」だ。
宣言が発表される約2週間前、JERAはいち早く、独自の戦略として「JERAゼロエミッション2050」を表明した。脱炭素技術の進展や経済合理性、政策との整合性を前提として、火力発電所においてアンモニアや水素の混焼を実施。また、その混焼率を徐々に引き上げていく方針だ。

電気事業連合会は「2050年カーボンニュートラル実現推進委員会」を発足させた。主な取り組みとして、火力発電の低・脱炭素化とともに、新たな技術開発・イノベーションなどを掲げ、各種領域の課題解決に向けた検討や議論を行っていく。


「ゼロエミ火力」実現に向け、さまざまなプロジェクトが動き始めた。その一つがCCS(CO2回収・貯留)。化石燃料由来のCO2を大気に放出せずに、地中や海底などに閉じ込め、CO2排出量の削減を図る方法だ。これまで研究施設レベルでの技術開発が進められてきたが、運用中の発電所を使った実証研究が始まっている。

関西電力の石炭火力・舞鶴発電所では、燃焼排ガスに含まれるCO2を分離・回収する試験を22年度からスタートさせる。発電所内にパイロットプラントを新設し、24年度まで実証研究を行う計画だ。同実証ではCO2を分離・回収する素材として多孔質材料を用いた固体吸収材を使用。従来より分離・回収時の使用エネルギーが少なく、低コスト化が期待される。

稼働中の発電所を使ったCO2回収の実証が行われる関電・舞鶴発電所


また、福岡県大牟田市にある東芝グループ・シグマパワー有明の三川発電所では、「ネガティブエミッション技術」、つまり過去に排出された大気中のCO2除去を目指す実証が行われている。同発電所はパームヤシ殻を主燃料とするバイオマス発電所であることからカーボンニュートラルを達成している。ここに、CCSを組み合わせることでBECCS(CCS付きバイオマス発電)の実用化を目指すというわけだ。

運用中の発電所で実証 30年ごろを視野に実用化

一方、もう一つの対策として、水素やアンモニアといった「グリーン燃料」を使用する方法が挙げられる。このうち水素については、LNGとの混焼、あるいは100%の燃料として専焼することで、既存の火力発電所を活用しながらCO2排出量を削減できる。

要となるのが、水素を燃焼するガスタービンの開発だ。独シーメンス・エナジーは大型から中型、小型まで、さまざまなタイプのガスタービンを展開する中、水素燃焼に向けた対応を進めている。技術面では、水素を燃焼させた際、燃焼器が安定的に稼働する制御などに注力。また、現行のLNG燃焼時と同様、負荷変動に対応できる運用の実現を目指している。

水素を発電に利用するには、大量調達が必要で、そのためのサプライチェーン構築が課題となる。将来、そうした体制が実現した際、需要家のニーズに応じて水素燃焼タイプの切り替えができるよう、30年までを目標に、現行の全機種において水素専焼を可能にする開発を進めているところだ。

前出のCO2分離・回収では30年ごろをめどに制度的仕組みの導入と併せて、1日3000t規模のCO2回収能力を有する大型設備に規模を拡大し、技術確立・普及を目指す。また、三川発電所では分離・回収後のCO2を貯留する適地の選定などを含めたプロセス全体の実証も行い、こちらも30年の本格的な社会実装を目指しているという。約10年後、さまざまな革新的技術が多方面で活用されていることが期待される。