地域貢献果たしてインフラ支える 賢い水素ディスペンサーでコスト減

2021年2月5日

【トキコシステムソリューションズ】

石油製油所、LNG基地などの大型インフラから街のガソリンスタンドに至るまでの計量機、あるいはガス導管におけるガバナやガスメーターなど、産業・エネルギーインフラの一翼を担うトキコシステムソリューションズ(創業1937年)。同社が神奈川県川崎市から静岡県掛川市へ、製造・開発拠点の完全移転を果たしたのは98年のことだ。90年代から掛川市が企業誘致を進めており、それに伴い掛川市内の工業団地エコポリスへ、「静岡事業所」として順次移転を進めてきた。当地に拠点を構えた第一号の企業が同社だ。

この拠点は東京ドーム2個分、全就業人員数約700人のうち220人(20年3月末現在)が働く。「当社は石油に代表される危険物燃料の流体計測に強みを持ちますが、この静岡事業所には計量機や流量計および水素ディスペンサーなど、機器の設計から製造、調達、保守、品質管理、財務部門が備わっていて、モノづくりに関わる全ての機能が集まる事業所です」と執行役員の高橋太・静岡事業所所長は説明する。

エコポリス移転のファースト企業として、日頃から地域に密着した取り組みを行っている。地元の学校からの工場見学の受け入れ、さらには掛川茶として有名な地元の「お茶生産」に対して、ボランティアで農作業に参加するなど地元への貢献を果たしている。周辺エリアへの貢献という意味では、同社のとあるアイテムが社会貢献を果たした。それは「タンクローリー直結型計量機」と呼ぶ、いわば移動式ガソリンスタンドだ。隣接する浜松市が市内の過疎化に問題意識を持ち、社会問題化しつつあるガソリンスタンド過疎化対策の実証を実施。その際、場所を選ばず給油できるこの計量機が貢献した。この製品は19年秋に千葉県を襲った台風被害に対しても、千葉エリアの給油を支えたそうだ。

水島好彦・取締役兼執行役員は次のように話す。「従来は計量機などの機器を開発して販売してきましたが、最近は災害対策や過疎化問題、BCP対策など、当社が手掛ける機器を切り口にしたソリューションを提供するスタイルへと変わりつつあります。幸い当社には営業・サポート拠点が全国各地にまんべんなく散らばっていて、8支店41営業所のネットワークがあります。営業員が各地でお客さまに丁寧にヒアリングしながらきめ細やかなニーズを掘り起こしてソリューションを提供していきたいと考えています」

注力する水素関連事業 「水素法」整備に備えて

そんなトキコが、いま注力するのが水素関連事業だ。トキコはFCVに水素を供給するディスペンサーを手掛けている。「90年代から圧縮天然ガス自動車向けのディスペンサーを手掛けてきた実績を基に、2000年代からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)さんの委託開発の実証実験事業の下、水素ディスペンサーの要素技術の段階から開発してきました」と榧根尚之・水素事業推進本部担当本部長は振り返る。当初、35MPa程度だった初号機は、最近では70MPa対応機へ技術開発が進んでいる。

「現在、ダブル充填制御の技術開発を進めていますよ」と榧根さん。従来は一つのディスペンサーから1本のシングルホースによって自動車1台への水素供給を行っていたが、2本のホースで2台同時に供給する仕組みだ。車両2台の充填時に、開始のタイミングや車両ごとの量の違いなど、さまざまな条件に対して最適に充填する制御が可能だ。「タンク内の残ガス量などを考慮しながら、ディスペンサーを制御して供給する仕組みです」(榧根さん)。現状はディスペンサー側と自動車の燃料タンク内の差圧を利用して供給しているが、仮に2台同時に供給すると、残ガス量に関係なく、供給を終えるタイミングは一緒になってしまう弊害がある。それを解消する「賢いディスペンサー」である。こうした開発により、「課題とされている供給効率は一気に上がりますし、ステーション全体のコスト低減にも貢献します」(榧根さん)。最近ではディスペンサー機器単体の開発だけでなく、水素ステーション全体のエンジニアリング業務から保守メンテナンス・サポート業務まで一気通貫で手掛けるようになった。 最後に、「今後、水素関連の計量法規が整備されるようになれば、それに対応する『水素ディスペンサー』も新たに必要になります。そうした製品も手掛けられるようにいま準備を進めていますよ」。水素事業推進本部長として水島さんはそう締めくくる。水素、都市ガス、石油。あらゆる燃料のエネルギーインフラを支えるさまざまなソリューションがこの事業所から生まれていくに違いない。