50年脱炭素化に向けての提言 中長期的な独自組織が不可欠

2021年2月11日

【アクセンチュア】石澤賢/アクセンチュア 素材・エネルギー本部 シニア・マネジャー

いしざわ・けん 2013年アクセンチュア入社。主に電力・ガス会社向けの市場分析調査・戦略立案などを10年以上経験。15~17年経済産業省に出向。電力・ガス取引監視等委員会取引監視課課長補佐として市場監視・制度設計に関わる。

日本では、VPPなどの試みを実証レベルで進めているが、欧米では既に商用レベルで稼働する事例も多い。今回から4回、アクセンチュアが次世代エネルギーの最新動向を紹介する。第1回は日本の脱炭素化に迫る。

昨年10月、菅義偉首相は臨時国会の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言する」と発言した。従来の「13年度比で80%削減」から大きく修正され、日本も欧米に肩を並べる政策が示された格好だ。

カーボンニュートラルを目指すに当たって、私たちは何をすればいいのか―。一般に、経済が成長すればCO2排出量も増えるわけだが、排出量を抑えたいからと経済成長を抑えたり、生活の質を落としたりするのでは意味がない。

排出量を消費行動から分析 CO2排出電源を減少へ

資源エネルギー庁では、そうした分析にCO2を排出する主な要因を分解し、式の形で示している。図1はこれをアクセンチュアが独自解釈し簡素化したものだ。

図1 CO2排出要因分解式を簡素化したもの
資源エネルギー庁の資料を基にアクセンチュアが作成

ここから①消費電力に対するCO2の量はより小さい値になると相対的に低炭素な電源が用いられている、②生産時に必要な消費電力は小さい値になると相対的にエネルギー効率(ここでいうと消費電力)が高く生産できる、③一人当たりの生産性はより大きい値になると相対的に高い生産性を示す―といったことが見えてくる。

次に10~18年までの一人当たりのCO2排出量の推移(図2)と、10年基準で10~18年の消費電力係数から一人当たりのCO2排出量の推移を国別に示す(図3)。

図2 10〜18年の一人当たりのCO2排出量の国別推移
IMF、OWID、ENERDATAのデータを基にアクセンチュアが作成

図2の一人当たりのCO2排出量を見ると、日本は米国や韓国より少なく、ドイツと同水準。フランスは原子力を中心とした低炭素電源を背景に相対的に低水準、英国もこれに追随している。

図3 10〜18年の消費電力量を係数に用いたときの一人当たりのCO2排出量の国別推移(2010年基準)
IMF、OWID、ENERDATAのデータを基にアクセンチュアが作成

図3は、消費電力から見た一人当たりのCO2排出量だ。日本が相対的にCO2の排出量の多い電力を使っている状況がうかがえる。11年の東日本大震災以降、火力発電の割合が増えている課題が浮かび上がる。

日本が脱炭素を推進するに当たってこの点は課題だ。少しでもCO2が少ない電源に切り替えていくことが脱炭素の促進につながる。

企業の動きも加速している。足元ではESG投資に代表されるように環境・社会活動などの複数の観点から企業の持続可能性の優位性を高めていく傾向にある。具体的には、①需要側の変化や供給側に再エネが導入されることなどを背景に、従来の需給環境は崩れつつある。また、エネルギー市場に自動車、ITなど異業種が参入することで市場環境そのものが変化している、②政府が掲げたカーボンニュートラルを含む環境目標に対するコミットメントが求められ、投資家も企業の姿勢に注目しつつある、③デジタル技術の発展に伴い、家庭のエネルギー制御の最適化、顧客のエネルギー消費を吸い上げた発電計画の策定へのAIの活用―などの新しい動きが出つつある。このように、消費者がよりエネルギーを効率的に使用し、環境に配慮した活動するなど、CO2の排出量を抑えるのに直結する行動が出てきた。

技術革新に期待高まる 脱炭素化に10年間で2兆円

しかし、これらはあくまでCO2を減らすための取り組みだ。50年カーボンニュートラルの目標を達成するのであれば、発電の大部分をCO2を排出しない再エネに切り替えることが求められるし、原子力の扱いについて議論する必要がある。

現状から脱却するには、技術革新による成長は従来にも増して期待が高まるだろう。特に、再エネの制御技術、水素技術などは脱炭素を加速させる。国も10年間で2兆円の基金を準備し、目標に向けた取り組みを後押ししている。ESG投資に代表されるように、持続可能な取り組みを行う企業により効率的に資金が集まる仕組みも必要だ。現状、徐々に投資家の行動がESG投資に向いている状況であり、集まった資金を企業が研究開発費に充てていく流れをつくる必要がある。

さらに、脱炭素実現に向けた技術開発、社会実証などが適切に行われていることを中長期的な観点から監視し、助言する立場も必要となる。人事異動や政権交代などに左右されない方針に沿った一定の権限を与えられた独立組織を設けることは欠かせない。技術開発に関しては、さまざま有望な技術がある。次回以降はその詳細に触れていきたい。