【目安箱/2月18日】ツイッターから消えた 大手電力関係者の本音

2021年2月18日

短文投稿のS N S、Twitter(ツイッター)で、奇妙な出来事が2月の初めに起こった。いわゆる大手電力会社の中堅社員と思われる3〜4人の匿名アカウントが突如発信を取りやめたのだ。書き込みでは、今のエネルギー政策への不満や、大手電力の人々が感じる被害者意識が、本音で語られていた。一体、何があったのか。

ツイッターはアカウントを登録すると、匿名で書き込みができ、フォローをした人の発言が画面に流れてくる仕組みだ。ここには「電力クラスター」と呼ばれる電力関係者らの集まりがあり、削除されたアカウントの中には1万人近くにフォローされているものあった。いずれのアカウントにも共通するのは、今冬の電力需給ひっ迫・価格高騰問題が、電力自由化での制度設計の失敗や原発停止、再生可能エネルギー偏重などによるものと指摘。そして電力自由化を主導した旧民主党政権、問題を是正しない自民党政権の政治家と、経産官僚や(旧電力の社員から見たところの)新電力の「ずるさ」を批判していた。

この削除に、ネット上では経産省が圧力をかけたのではないかという憶測が広がった。経産省筋は「あり得ない」と、その憶測を一笑に付したが、一方で「大手電力の関係者には相当不満が溜まっていたようだ」と感想を述べた。ある既存大手電力の総務部が、ツイッターなど外部への情報漏洩の注意を呼びかけたようで、それに応じて社員が自主的に発信を取りやめたらしい。

ただしこの騒動で、考えるべき問題点がある。大手電力の関係者が行政当局、会社、そして新電力など電力業界をめぐる諸状況に怒りや不満を貯め込んでおり、それがツィッターで可視化されたということだ。東京電力の福島第一原発事故、そしてそれをきっかけに社会に広がった大手電力批判、さらには電力自由化という激動に、電力業界とそこで働く人々は巻き込まれた。その過程で、鬱憤(うっぷん)が溜まっていたのだろう。

大手電力に根付く建前と本音の構図

「自分には責任のない電力の激動に巻き込まれ、私は苦労させられている。電力会社は、かつてはどの地方でも、どの産業からも尊敬され、大切にされた。電力産業は国の根幹で、それを担う誇りも持っていた。ところが今は、原発事故の責任を負わされ、批判される。経産省は新電力の肩を持ち、新電力は理不尽な要求で会社の財産権を侵害する。それなのに気候変動、脱原発、安定供給の各種対策など、責任と負担ばかり押し付けられる。給料は増えないのに残業だけ増える。私たちは政治や役人のおもちゃではない。怒らない会社の上層部もおかしい。やっていられない」

発信を停止したアカウントには、要約するとこんな発想で貫かれた投稿が並んでいた。大手電力の社員はいわばエリートで、属する会社の社風も真面目だ。不満を表立って言えない「建前」の強い組織にいる。電力業界を取材すると、社員からは最初に「建前」の話を聞くが、何度も会い、仕事以外の場で本音を聞くと、今の仕事への苦しみや不満の本音が出る。その本音と同じものが、ツイッターの一連の投稿から垣間見えた。

もちろん、このように要約した大手電力の中堅層の本音は、全てがそうだとは思えないし、立場が変われば別の意味を持つだろう。例えば、経産省や新電力の人からすれば、「既得権益を使う人の甘え」と受け止めるかもしれない。ただし「自分たちの声が聞いてもらえない」ことから発する不満が大手電力で働く人々の間で渦巻いているのは間違いない。

そうした不満や苦しみは、同情する点はあるし、その通りと思えるところもある。最近の原子力政策、電力自由化では、当事者の電力会社の意見はなかなか聞かれず、政策の変更を政治家と経産省、原子力規制庁が主導した。それによる電力ビジネスの現場では、現実を理解していない政策による混乱が確かにある。

かつては電力業界から行政への提言や政治へのロビイングは東京電力、電事連が担った。政治家の選挙協力や役所から電力業界への「天下り」もあり、電力と行政の意思疎通は、それなりにあった。ところが3.11以来、そうした業界と、政治・行政の交流は、社会から批判を受けたり、一部の政治家が攻撃したりしたことで、ほとんどなくなったとされる。行政の審議会では大手電力の幹部がオブザーバーとして顔を出すものの、建前だけが話され、現場の人々の本音はなかなか伝わらない。

現場を尊重しない行政主導は不健全

電力業界をめぐる状況は、3.11以前と今では大きく変わってしまった。時計の針は元には戻らない。かつてのような行動を大手電力はできない。以前はあったとされる「みんな仲良し」の電力業界の雰囲気が戻ることはないだろう。

しかし、今のように大手電力で働く社員の意見が尊重されない政策、業界の姿は健全とは言えない。今も電力産業を主導するのは既存の10電力で、そこで働く約18万人の従業員が業界を動かしているのは紛れもない事実だ。実務を担う人々を大切にしない政策は必ず行き詰まるし、産業を大切にしなければやがて利用者が損をする。今のように電力業界内がギスギスして疑心暗鬼に満ちれば、無意味な摩擦やトラブルも事業者間、事業者対消費者、事業者対行政でさらに増えるだろう。かつての「みんな仲良し」的雰囲気が懐かしがられるかもしれない。

電力で働く人々の声を聞き、それを尊重する。無意味な批判はやめる。ツイッターでの小さな騒動が示した重要な問題を、エネルギーに関わる人も、消費者も、考えるべき時かもしれない。