【特集2】「世界は脱原発」は本当か 気候変動対策で高まる存在感
新増設を促す市場の設計や資金調達の枠組みが必要に

2021年3月3日

国際エネルギー機関(IEA)は原子力発電が温暖化防止で大きな役割を果たすと指摘している。
では、諸外国はどう原子力をCO2排出削減に活用していくのか―。
欧米などの例を紹介しよう。

バータルフー・ウンダルマー/日本エヌ・ユー・エス株式会社 エネルギー技術ユニット コンサルタント

国際エネルギー機関(IEA)は、原子力発電の有意な増加なしでは、CO2の排出増加による気候変動を緩和しつつ、持続可能な開発を達成するのに十分なエネルギーを確保することは困難であると指摘している。
パリ協定の目標を達成する世界的な移行を描いたIEAの持続可能な開発シナリオ(SDS)においては、再生可能エネルギーの大規模な拡大に加え、原発も増加する見通しである(図1)。容量ベースでは2040年に約600GW(1GW=100万kW)の原発設備容量を必要としている(19年現在は443GW)。
欧米などの諸外国では気候変動対策における原子力の可能性が認識され、原子力を使用する定性的な計画や、定量的な展開目標と時間枠などのさまざま形で政策に反映させている。

図1 SDSにおける世界の発電構成の推移

●英国
資金調達オプションを検討

19年6月、50年までに温室効果ガス(GHG)の排出量をネットゼロにする目標を法制化した。20年12月のエネルギー白書によれば、熱需要や輸送部門などの電化に伴って、50年の電力需要が現在の2倍になる可能性があり、そのため低炭素電源による発電量を4倍に増やす必要があるとしている。その際の電源構成は、主に風力を中心とした再エネ、原子力、およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力によって構成される見込みである。
白書では、原子力に関して、信頼性の高い低炭素電源としての重要性が強調されており、今後、大型炉を利用する大規模な原発を追求する一方で、小型モジュール炉(SMR)と革新的モジュール原子炉(AMR)への投資も行うとしている。
また、建設中のヒンクリーポイントC発電所は20年代半ばに稼働し、現在の電力需要の7%を供給する見通しであるが、既存の原子力発電所の多くが今後10年で廃止されることから、50年に低炭素で低コストの電力システムを実現するために新規建設がさらに必要とされている。具体的には、現在の議会が終わる24年までに、少なくとも一つの大規模原子力プロジェクトを最終的な投資決定の段階に到達させるとしている。
政府は、エネルギー白書の公表と同時に、フランスの電力大手EDFがイングランド東部で計画中のサイズウエルC原発の建設プロジェクトについて、資金調達に関する交渉の開始を発表している。政府は、長期的には民間投資を確保し、消費者負担の低減につながる可能性のある規制資産ベース(RAB)モデル*1を含むさまざまな資金調達オプションを検討するとしている。
次世代原子炉に関しては、30年までの国産のSMRの開発とAMRの実証炉の建設、40年までの核融合炉の実用化を目指している。SMRは、大型原発よりも短期間で建設でき、またより多くのサイトに展開できることが期待されている。

●フランス
原子力への依存度低減を延期

発電量の約70%を原子力が占めている。発電コストの安い大量の原発により、世界最大の電力の純輸出国となっている。今後のエネルギーおよび環境政策においても原子力が重要な役割を果たす見通しである。
19年11月にエネルギー法を改正し、50年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を盛り込んだ。さらに、22年までに全ての石炭火力発電所の稼働を停止するとしている。この移行を容易にするために、25年までに原子力への依存を発電量の50%に減らすという以前の目標は35年までに延期された。
なお、原子力の割合を25年に50%に削減するという目標を35年に延期する方針は、18年11月のエネルギー計画のドラフトの時点で決められており、それも、低炭素電源としての必要性が認められていたことが背景にある。同計画では、35年までの廃止計画を示しつつ、新しい原子炉を建設するオプションも残っている。
19年10月、環境および経済大臣は、フランスの三つの既存の原子力サイトに各2基のEPR2(改良型EPR)を建設する可能性を調査するようEDFに要請している。当初、建設プログラムを21年半ばまでに決定する予定であったが、建設中のフランビル3原発が稼働するまでに延期している。

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