【特集2】①2050年の電源構成を予測 再エネと共に原子力が不可決

2021年3月3日

原子力発電は35%が必要に


特定非営利活動法人 ニュークリア・サロン

2050年に向けて脱炭素社会を実現していくには、わが国のCO2放出量の約4割を占める発電部門で脱炭素化を実現していく必要がある。世界の主要国は、原子力と再生可能エネルギーで脱炭素化を目指しており、日本も再エネを主力電源に、原子力を重要な基幹電源と位置付け実現を目指している。
本稿では、50年の電力需要を現在の年間1兆500億kW時よりも若干増える1兆1000億kW時と仮定して、①太陽光、風力などの変動性再エネ(VRE 、Variable Renewable Energy)、②水力、バイオマス、地熱などの安定再エネ、③原子力およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力などの安定電源―を組み合わせて、電力の安定供給と脱炭素化を可能とする50年の電源ミックスについて考察する。
評価の特徴は、16〜19年度の気象条件に対応したVREの設備利用率の実績と電力需要データを用いて、50年の電力供給の状況を予測したことである。
19年度の総発電量に占める太陽光、風力の割合はそれぞれ6.7%、0.7%にすぎないが、風力は今後洋上風力を中心に大規模な導入が求められていることを考慮し、50年のVREの総発電量比率として20%、40%、85%の3種類を想定した。
水力などの安定再エネは、30年度までに年間総発電量の15%を実現すべく開発が進められているが、それ以上の拡大は難しいと想定されることから50年も15%とした。
現在、総発電量の75%は火力発電で賄われているが、脱炭素化の実現にはCCUS技術が必要となる。また、福島第一発電所事故以降、国民の信頼回復途上にある原子力で再稼働ができたのは、再稼働可能な36基中わずか9基しかなく、19年度の発電量は6%にすぎない。
30年度の政府の原子力目標値20〜22%を実現していくことは厳しい状況にあるが、負荷追従運転ができる安定電源として、CCUS付き火力と原子力の合算値をVREの導入割合に応じて65%、45%、0%とした。

2016~19年度の実測データに基づいた計算結果

変動性再エネは4割が上限か 全て再エネで安定供給は困難

表にその計算結果を示す。50年の脱炭素化を実現するには、太陽光と風力による発電量割合を同等の1:1に近づけ、これらの 発電量で40%を目指すことを提案したい。過去4年間の気象データに基づけば、夏季に発生する1日当たりの最大不足電力量は0.34~0.9億kW時となるため、大容量蓄電池や揚水発電による充足が必要であり、40%はほぼVRE導入の上限と考えられる。
不足電力は夕刻から夜間に発生するが、昼間の余剰電力を利用した蓄電池への充電あるいは揚水くみ上げで調整することになる。ただし、春秋に発生する余剰電力量は1日当たり最大5億kW時にも達し、一部を不足電力の調整に活用してもその大半は無駄となる。
一方、VRE85%、安定再エネを15%として組み合わせた再エネ100%の場合は、ほぼ毎日おびただしい余剰・不足電力が発生し、VRE40%の1日当たりの余剰電力の約4倍、同不足電力で最大約26倍となる。蓄電池などの調整電源で賄える変動規模を大きく逸脱し、電力の安定供給を期待することは困難である。
VRE40%と安定再エネ15%とすると、再エネ合計で総発電量の55%を賄うこととなり、残りの45%は安定電源で賄うことが必要になる。CCUS付き火力発電については、現在、わが国周辺地域でCO2を1億t以上貯留できる地域が複数検討されている。
そのため、例えば100万kW級火力発電所10基から排出されるCO2は年間3000万tであることから、これらを貯留できる地域を確保できれば5%の発電量を期待することができる。
また、水素燃焼発電も、今後の技術開発次第で一定規模導入されると期待したい。さらに、VRE を主電源とし、電気自動車などを活用して地域の電力供給を賄うスマートコミュニティーが全国で一定規模実現されれば、電力需要の数%を賄うことも期待できよう。

原子力発電設備容量の推移

35%は軽水炉40〜50基で 使用済み燃料のリサイクルも

これらの脱炭素技術の実用化によって、総発電量の10%程度を賄えれば、残る35%を原子力で対応することになる。これに必要な5360万kWの設備容量は、40〜50基の軽水炉で実現できる規模である(図参照)。これを実現していくには、国民からの信頼を再び得られるよう、安全対策の充実に加え、①福島第一発電所の安全な廃炉、②放射性廃棄物の最終処分場の選定、③使用済み燃料を再利用する核燃料サイクルの実用化を政府のリーダシップの下進めていく―ことが重要である。
今後の各技術の開発状況とその経済性を確認しつつ、30年の断面では、50年の脱炭素化に向けての導入可能な電源構成を再評価する必要があろう。
主要国は50年の脱炭素化に向けて再エネ+原子力を中核にした電源構成とする方針を打ち出している。このため21世紀後半には、世界的な軽水炉の利用拡大に伴うウラン価格の高騰が懸念される。
また、軽水炉でのプルサーマル利用により、今後使用済みMOX燃料が蓄積されることも考慮すれば、50年以降の持続的な原子力利用のためには、使用済み燃料をリサイクル利用することで海外のウラン資源に依存せず、放射性廃棄物の減容などを実現できる高速炉と燃料サイクルを、今世紀後半までに実用化するよう技術開発を着実に進めていく必要がある。

藤家洋一元原子力委員長が中心になり、原子力について正しい理解を促進するため、原子力関係者が勉強会や講演会、著作活動などを続けるNPO。本稿は2020年6月24日の講演会資料を参考に、メンバーの小竹庄司、佐藤浩司、難波隆司、佐賀山豊が執筆した。
http://www.ns-fuji-ie.jp/npo_index.html