高まる洋上風力への期待 普及拡大に死角はないのか

2021年3月8日

【アクセンチュア】岩上昌夫/アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部コンサルティンググループユーティリティー プラクティス日本統括

いわかみ・まさお 外資系コンサルティング会社、監査法人などを経て2016年入社。20年以上にわたり電気事業者、ガス事業者向けのコンサルティングに従事し、経営戦略からプロセス改革、システム導入などをリード。20年3月から現職。

前回は「CO2排出量の少ない電力への切り替えが脱炭素化を促進し、持続的な技術革新も必要」と提言した。2回目の今回は、電力セクターに関連する風力発電における技術革新についてレポートする。

2020年12月2日に経済産業省の資源・燃料分科会が開催され、50年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の方向性を議論した。電力セクターでは非化石電源の拡大、脱炭素化できない領域はCCUS(CO2回収・利用・貯留)をはじめカーボンリサイクルなどを最大限活用することが必要と報告した。

同会議は主に燃料の観点での議論だったため、CO2の捕集・貯留、水素、脱炭素燃料にやや焦点が当たったが、電力部門という観点では再生可能エネルギーの導入拡大に向けての技術的課題も多い。

脱炭素時代に必要な技術 再エネ拡大に向けた課題

再エネの中で、注目されているのが太陽光発電と風力発電だ。19年度の実績によると、日本の総発電量に占める太陽光と風力の割合は、おのおの7・6%、0・8%であり、太陽光の存在感が強い。太陽光発電は、12年7月にスタートしたFIT(固定価格買い取り制度)により導入が加速し、約7900万kWの太陽光発電が事業認定され、約5500万kWが稼働している(未稼働の太陽光発電は社会的な課題となっており、そのためにFIT法の改正や運転開始期限の設定などの措置が実施されている)。しかし、FIT制度がFIP(市場連動価格買い取り制度)に移行し市場に統合されることによって、投資インセンティブの確保が難しくなることが想定される。また、太陽光発電に適した土地も減ってきている。

これに対し、風力はグリーン成長戦略の柱の一つと位置付けられているほか、昨年12月15日に開催された第2回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会において洋上風力産業ビジョン(第1次)が提出され、日本においても洋上風力の本格導入の機運が高まっている。

同ビジョンでは直近の検討課題として、案件安定化スキーム、電源系統インフラの整備、港湾インフラの整備が挙げられている。

設備利用率向上に 浮体式の普及が必須

アクセンチュアでは、それに加え中長期的な技術課題として、欧州で注目されている浮体式技術の確立、タービン大型化への取り組みが非常に重要だと考える。浮体式は、水深50〜300mの海域に対応しているため、設置海域の自由度が広がるとともに強風に対応しているため、設備稼働率の向上に貢献する。

また、設置時の海底への浸食が少なく、海洋環境への影響が低減される。

これに加え、欧米ではタービンサイズが大きくなり最大出力が向上しつつある。大型タービンは、風の弱い状態でも従来の小型ユニットと比較して効率よく発電できるため、同じサイト条件で2~7%の設備利用率の改善が可能となる。同時に、タービン当たりの出力が高いため、伝送損失の低減によるスケールメリットが得られる。またMW当たりの運転・保守コストの削減が可能だ。

2050年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の検討・方向性に関する資料

浮体式風車のタイプ

風車容量の変化

18年度の北海道における年間設備利用率は26・5%だった。風力発電の設備稼働率は地域依存性が高いが、ほかの地域においてもおおむね同じ程度と考えられる。これは、スペインの25・4%(14年IEAの調査結果)に比べても勝っており、日本の設備利用率は国際的に見ても優秀だといえる。しかし、日本はタービンの大型化に後れを取っている。また、日本周辺の浮体式ポテンシャルも十分に生かしきれていない。そのため、設備利用率を向上させる取り組みが今後は求められる。具体的にいうと、IoTやデジタル技術を活用したO&M(オペーレーション&メンテナンス)の効率化と高度化だ。スペインのイベルドローラ社は運用中に洋上風力発電所から収集されたデータの分析と管理を可能にするO&M情報管理プラットフォームを開発し、これらの施設の運用および保守コストを削減する戦略を立案するためのプロジェクトであるロミオプロジェクトを17年6月に開始している。日本においても同様の取り組みが今後求められると考えられる。

このほか、風力発電の普及には産業レベルの蓄電池(蓄電所)の開発も必要だ。

日本には、風力発電用のタービンメーカーがない。過去には存在したが、全て撤退してしまっている。前述のデジタル技術や蓄電技術を含め、どこまで国内産業育成ができるかが今後の鍵になる。太陽光発電の二の舞いとなってはいけない。