【特集3】「浪江」で目指す社会実装 技術集積で地産地消実現へ

2021年3月4日

インタビュー:渡邉友歩/浪江町役場 産業振興課 産業創出係 副主査

渡邉友歩・副主査

―浪江町はゼロカーボンシティ宣言や水素タウン構想を掲げています。経緯を教えてください。

渡邉 2020年3月7日に、福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が町内に落成しましたが、水素を社会実装するにはまだまだ課題は多くあります。そのため「町全体を実証フィールドとして使ってもらい、社会実装につなげてもらいたい」との思いで、同年11月20日に水素タウン構想を立ち上げました。現在は多くの実証が町内で行われています。

―どのような実証ですか。

渡邉 当町では道の駅「なみえ」への燃料電池導入、公用車に水素燃料電池車「MIRAI」の導入、電柱など既存インフラの上に水素のパイプラインを敷設する実証、生協トラックによる水素の運搬実証、町内における水素サプライチェーン構築に向けた実証、水素活用も視野に入れたRE100産業団地の計画、民間事業者とも連携した水素ツーリズム―など、計7つの水素を活用した取り組みおよび実証が行われています。

 特に、道の駅での燃料電池はFH2R由来の水素をトラックで運搬し、施設内の電源や温水のエネルギー源として活用しています。また柱上に水素パイプラインを敷設する実証は、ブラザー工業や横浜国立大学、巴商会がパートナーとなり、RE100産業団地や町内への活用を目指しています。来年度からは、ビジネス化も本格的に検討していきます。

研究機関・民間とも連携 水素社会実現に町も尽力

―昨年10月26日には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、今年1月18日には住友商事と水素活用に向けた協定を締結されました。

渡邉 まず、NEDOと締結したのは、FH2Rの水素を町内で広く使うことに加えて水素を広くPRするという内容です。住民からも「地元で作られるエネルギーを地元のために使いたい」という意見は多く寄せられています。水素を地域で有効活用すると同時に、観光資源化に向けても取り組んでいきたいと考えています。

 住友商事は当町と関係が深い企業です。約4年前に当町の避難指示が一部解除されたのち初めて工場を建設したのが、電気自動車(EV)バッテリーをリサイクルする住友商事と日産自動車の共同出資により設立された「4Rエナジー」でした。協定では復興まちづくりに加え、さまざまなFCモビリティが使えるマルチ水素ステーションの整備を目指しています。

 町内各地では水素関連の実証が行われていますが、やはりFCモビリティに水素を充填するスタンドを求める町民はとても多くいます。現在は検証・調査段階ですが、地産地消のエネルギーを住民が使えるようにするためにも、実現に向けてしっかりと取り組んでいきます。

―水素社会の実現に向け、意気込みをお願いします。

渡邉 浪江町は原発の事故で大きな被害を受けました。町としても水素という新しいエネルギーを使い成長したいと考えています。

 水素社会の実現は10年、20年掛かる長期的な取り組みです。水素社会を実現するには技術面だけではなく、市街地では大きな燃料電池に必要な水素を貯蔵できないなど法制度面の壁は大きいと感じています。当町や官民が連携することで課題をひとつひとつ解いていき、実証で終わらせずに人々の生活に溶け込こみ、地域の方々に喜んでもらえるよう取り組みたいです。

浪江町内では柱の上に水素パイプラインを敷設する実証も進められている