異なる分野の需要を束ねて管理 再エネ電力の最大活用で脱炭素を

2021年3月10日

【電力中央研究所】

たかはし・まさひと 東京大学大学院工学系研究科 博士号(工学)取得。
1995年電力中央研究所入所。エネルギーエシステム分析・需要分析やデマ
ンドレスポンスなどの研究に携わり、2016年10月から現職。

需要と供給側のエネルギー管理によって、脱炭素化を図る「セクターカップリング」という考え方がある。電気自動車、太陽光発電、エコキュートなどを用いて研究する、高橋雅仁・上席研究員に話を聞いた。

―セクターカップリングとは何でしょうか。

高橋 エネルギーは運輸、家庭、工場、店舗など、さまざまな部門で消費されています。エネルギーの利用効率を高め、再生可能エネルギーを活用するために、エネルギーの需要側と供給側を部門横断で管理して脱炭素を行うのが、セクターカップリングという考え方です。省エネやCO2削減だけではなく、電力系統の安定化と再生可能エネルギーを最大限活用することもできます。これらのメリットは需要家、小売り電気事業者、送配電事業者のコスト低減にもなり、社会全体の利益として還元されます。電中研では、電気自動車(EV)を活用した需給協調や、HP給湯機のエコキュートと住宅用太陽光パネル(PV)を用いたシステム、また産業部門の電化とネガワットの研究を行っています。

EVバッテリーで系統安定 余剰電力をHPに活用

―EVを用いたセクターカップリングについて教えてください。

高橋 EVに搭載されている蓄電池を系統に接続することで、昼間に発生するPVの余剰電力を蓄電池に充電し、PVの出力がない夜(点灯帯)には系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)技術があります。電中研は九州電力、日産自動車、三菱自動車工業、三菱電機の5社が参画するV2Gを用いたVPP(仮想発電所)実証に2018年から参加しています。

―実証で電中研はどういった役割を担っていますか。

高橋 まず、九州エリアのPV出力制御量の低減やダックカーブ対策にEVがどれほど効果的かを検証しています。その中で電中研はV2Gのシミュレーションを担当しています。

 もともと電中研では道路網内のEVの交通行動を模擬し、充電スタンドを効率的に配置するにはどうするのかを計算をする「EV-OLYENTOR」というシミュレーターを開発していました。実証では九州全域でEVが120万台普及し、かつ各所にEVスタンドがあるという条件で、PVの出力制御時にEVの蓄電池をどれだけ有効活用できるのか試算しました。

その結果、夜から昼間にシフトしてEVの充電を行うV1Gでは最大37万kW、V2Gの場合は最大130万kW分のPV出力を活用できるという結果を得られています。しかし、EVユーザーにアンケートを行ったところ、8割近いユーザーが「対価があれば実証に参加したい」とコメントした一方、「電池の劣化」や「電欠」などの懸念も聞こえました。今後は、こうした問題が解消できるのか、またビジネスに発展させられるのかを評価していく予定です。

V1G:夕方18時以降のEV充電量を、翌日昼間9時-15時にシフトして需要創出する
V2G:V1Gに加えて、点灯帯18時-21時に放電、EVの蓄電残量の空き容量を確保。翌日昼間9時-15時にこの空き容量に充電して需要創出する

―住宅用PVとエコキュートを組み合わせたセクターカップリングとはどのようなものですか。

高橋 19年11月からFITの買い取り期限を終える住宅用PVが大量に発生し、買取価格が下がるため、昼間に発生するPV余剰電力を蓄電池に蓄えて、自宅で消費するニーズが増しています。そこで、電中研ではその卒FIT後のPV余剰電力をエコキュート向けに使えないのか、検証と評価を進めています。研究は関西地域の戸建住宅(4人世帯)を想定し、PVの余剰電力を①売電する、②蓄電池(容量6kW)に充電し夜間に消費、③売電+エコキュートを活用(夜間蓄熱)、④売電+エコキュートで余剰電力による昼間蓄熱と、本来の夜間蓄熱を併用する最適運転―のCO2排出量や1次エネルギー使用量を考慮した環境面、再エネ自家消費率、需要家にかかる年間コストを評価しました。

――どのような結果が出ましたか。

高橋 まず環境面では、都市ガスを使わない分、蓄電池や売電よりもエコキュートを活用した③と④が最もよい評価が出ています。自家消費率は②の蓄電池が最も効率がよい評価でしたが、④の最適運転を行うエコキュートは日中に発生する電気を蓄熱に回しているため、2番目によい評価でした。

需要家にかかる年間コストについては、エコキュートの導入費用は蓄電池よりも安価のため、エコキュートの方が経済的との結果が出ています。さらに①の売電との比較でも都市ガス料金が発生しないことから、ガス給湯器との差額を考慮しても④の最適運転を行ったエコキュートが最も経済性がよいという評価となりました。

電力会社と産業間を橋渡し 未来のビジネスに向け後押し

―政府は50年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。

高橋 政府のカーボンニュートラル宣言には、エネルギー業界のみならずさまざまな業界から反応がありました。CO2の排出削減には、需要の電化と電源の脱炭素化が不可欠です。電力を供給する電気事業者とともに、モノづくりの専門家であるメーカーと電力に関する専門家集団である電中研の強みを組み合わせながら、カーボンニュートラル実現に向けて研究を進めていきます。

 現在行われている技術実証事業は、将来のビジネスにつながっていきます。そのためにも協力をしていきたいですし、より情報発信を行っていきます。