【特集3】国内外の脱炭素化で脚光 異業種連携と利用拡大が加速

2021年3月4日

日本や海外で脱炭素化への動きが加速するにつれ、水素が脚光を浴び始めた。昨今の情勢の後押しにより、異業種連携や利用分野の拡大が着々と進んでいる。

昨年12月、水素社会の実現に向け、新たなコンソーシアム「水素バリューチェーン推進協議会」が誕生した。同協議会の目的は、サプライチェーン全体における社会実装プロジェクトを実現し、早期の水素社会構築を目指すこと。岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、東芝など9社が理事会員を務め、参画企業は88社(2020年12月現在)に上る。

異業種が連携して水素社会の実現を目指す

今後、水素社会構築を加速するため、①水素の需要創出、②技術革新によるコスト削減、③事業者に対する資金供給―の3点の課題に取り組む。ワーキンググループを作り、社会実装プロジェクトの提案・調整やファンド創設、規制緩和などの政策提言を行っていく方針だ。

同協議会の参画企業の業種は、電力、ガス、石油などのエネルギーをはじめ、自動車や運輸、商社、電機メーカー、プラントメーカー、金融―と実に多彩だ。このように、水素は、製造、輸送、貯蔵に始まり、需要側への供給や利用に至るまで、多岐にわたる分野の技術と知見が必要になる。同様に、水素関連のプロジェクトや取り組みでは、ほかにも企業間連携による事例がいくつか挙げられる。

技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構「HySTRA(ハイストラ)」、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合「AHEAD(アヘッド)」はそれぞれ、海外産の水素を日本に輸送するサプライチェーン構築に向けた実証試験を行っている。また、FCV(燃料電池車)の普及に向け、日本水素ステーションネットワーク合同会社「JHyM(ジェイハイム)」は水素ステーションの整備を進めている。昨年11月時点で全国162カ所の採択数となり、経産省が目標とする「20年度までに160カ所程度」を達成した。

脱炭素の機運高まる 電力分野での利用も

日本の水素政策のベースとなっているのが、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(14年策定)だ。16年に改訂された際には、フェーズ1「水素利用の飛躍的拡大(燃料電池の社会への本格的実装)」、フェーズ2「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」、フェーズ3「トータルでのCO2フリー水素供給システムの確立」とする三段階での方向性が示された。中でも、フェーズ1では、燃料電池の目標価格、燃料電池の普及台数や水素ステーションの設置箇所の数値目標が示された。さらに19年の改定では、基盤技術のスペックやコスト内訳の目標として、水素製造コストや水素液化効率などの数値が設定された。

ロードマップの最初の改定時にはフェーズ1に重きを置いた政策だったが、現在はフェーズ2やフェーズ3、また電力分野での利用に重点が置かれるようになってきた。三菱パワーは発電所のゼロエミッション化に向け、水素専焼ガスタービンに向けた開発を進めるとともに、既設のLNGだき発電設備の改造を最小限にすることで投資コストを抑えた水素転換を目指している。また独シーメンス・エナジーは、30年までにガスタービン全機種を水素専焼に対応する目標を掲げる。

脱炭素への機運の高まりも、水素利用の拡大を後押しする。菅政権のカーボンニュートラル宣言を受けて策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、キーテクノロジーとして盛り込まれ、水素発電コストをガス火力以下に低減する目標などが示された。

さらに水素の製造プロセスに着目し、よりCO2排出量の少ない方法を目指す動きも出ている。その種別は色分けで分類される。グレー水素は、化石燃料を改質して生成される水素で副生物としてCO2が発生する。ブルー水素は化石燃料から水素を生成するが、CCS(CO2回収・貯留)によって実質的にCO2排出量を削減する。グリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して水素を生成することで、CO2フリーとなる。

製造・輸送コストが課題 アンモニアの利用に注目

課題となるのがコストだ。アクセンチュアのビジネスコンサルティング本部の岩上昌夫マネジング・ディレクターによると、「CO2フリーの点ではグリーン水素が理想的だが、グレー水素に比べて約4倍の製造コストがかかり(図参照)、早期の商用化は難しい」という。このため、当面は天然ガス蒸気改質、もしくは石炭ガス化にCCSを組み合わせたブルー水素が現実的とされる。ただ、「CCSで貯留したCO2は長期的には漏洩していくこと、また化石燃料が有限であることから、貯留はあくまで、つなぎの技術と考えるべきである」(岩上マネジング・ディレクター)という。

図 製造方法別水素製造コスト
IEA, U.S. DOE, Fraunhofer, Eurostat, Irena, Hydrogen Council のデータからアクセンチュアが作成

また、サプライチェーンにおけるコストアップも要因として挙げられる。水素の沸点はマイナス253℃と低く、極低温の液化設備や専用の輸送船が必要となり、水素コストが高くなってしまう。

そこで、水素エネルギーキャリアとして注目されているのがアンモニアだ。アンモニアは8・6気圧、20℃で液化するため、水素よりも液化時のエネルギー損失が少なく、輸送船も水素に比べて安価に製造することができる。この特性を利用して、アンモニアを海外で製造し、日本に輸送した後、必要な場所で水素を取り出して利用することが可能だ。

これまで幾度かのブームがありながら、エネファームやMIRAIといった市販化された商品はあるものの、水素社会の実現にはまだ至っていない。国内、海外を含めた脱炭素化という大きな潮流の中、水素の果たす役割はこれまでになく重要なものになっている。