【電力中央研究所 松浦理事長】時代に合わせて体制変更 業界・メーカーと連携しイノベーションと社会実装

2021年4月2日

志賀 約4割を占める発電サイドの脱炭素化に向けて、どのような研究を進めていますか。

松浦 火力発電は立場が難しくなりつつありますが、実態として原子力発電の稼働が難しい状況下では火力をどう活用するのかが安定供給を守る上で重要です。また水素やアンモニア、バイオマスなどの燃料にどう向き合っていくのかも重要で、われわれもアンモニア混焼などの研究を進めています。

 アンモニアはCO2を排出しないクリーンな燃料として期待される一方で、アンモニア混焼の比率を上げていくと窒素酸化物(NOx)を多く排出してしまう懸念もあり、こうした課題に取り組んでいます。既にJERAは自社の石炭火力でアンモニア混焼に向けた技術検討を始めると発表していますが、われわれとしても研究成果を提供できればと思っています。

 アンモニアの混焼を大規模に行っていくには、アンモニアによる金属の腐食対策も必要ですし、燃料調達をどうするのかという課題もあります。技術を高めていくと同時に、こうした動きも注視していきます。

脱炭素の鍵を握る原子力 リスク評価の研究も

志賀 もう一つカーボンニュートラルで重要とされているのが原子力の活用です。米国のバイデン新大統領や、企業家のビル・ゲイツ氏などが小型モジュール炉(SMR)導入に本腰を入れるとの報道もあります。電中研では4S炉の研究も進められていました。

松浦 4S炉は震災前までメーカーと進めていましたが、震災の影響もあり中断しています。4S炉はコストの問題や負荷変動への対応など、単独では課題がありました。小型にして地域に根差した電源にするというのもメリットがある半面、小型とはいっても原子力であるため、皆さんに受け入れてもらえるのかという点が非常に重要です。

志賀 原子力産業の担い手をどう確保するのかは、社会的にも大きな課題です。

松浦 まずは、安全な運用を続けて国民の信頼を得ていくことが大事です。われわれとしては第3世代原子炉の改良型加圧水型軽水炉(APWR)や改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の安全性を確実に高めることや、福島第一原子力発電所の事故と同様のことが起きないよう、水素が発生しにくい燃料や制御棒の研究に取り組んでいく予定です。

 また、電中研内にある原子力リスク研究センター(NRRC)では、原子力発電所の安全性向上への研究として、例えば発電所内部の火災リスクを体系的に評価する火災PRAガイドの策定や、竜巻による飛来物に対する安全対策の合理化を図るために用いられる竜巻ハザード評価技術の開発を行っています。これらの研究を進めていき、設計段階からリスク情報が活用されるように情報発信を続けていきます。

時代に即した体制へ 共創で新時代に挑む

志賀 カーボンニュートラルの実現という高い目標に電気事業が挑む中で、電中研の研究体制にも何か変更がありますか。

松浦 現在検討を進めている最中です。一昨年の秋に中期経営計画を策定し、2050年を見越した目指す姿からバックキャストして30年に達成すべき目標を定めています。石炭火力に対する風当たりやカーボンニュートラルなど、社会ニーズが大きく変わってきており、現在の体制では今後の融通が利きにくいと考えています。臨機応変にスピード感を持って対応できるように、04年から続けてきた研究所体制を再検討することで、分野横断的に技術を組み合わせられるようにと考えています。

 イノベーションはさまざまな技術が新たにつながることで生まれるものだと思います。体制を一新することで、研究員の力を十二分に発揮できるような環境作りを進めていきたいと思います。

志賀 現在、政府内に2兆円の環境投資基金を設けるなど、脱炭素に向けた技術開発に対する社会的なニーズは高まりつつあります。

松浦 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や経済産業省が公募する事業には、われわれも積極的に応募していこうと考えています。電中研単独の応募だけではなく、電力会社やメーカーなどと手を組み、実際に社会に役立てられるものを造るところまでを進めていきたいと思います。

 そのためにも、まずはさまざまな企業に対して「われわれはこういうことができますが、手を組めませんか」というような話もしています。政府からは50年にカーボンニュートラルを実現する大まかな方向性は示されましたが、その手立ては多くの法人が模索しているところです。カーボンニュートラルを実現するためにも、われわれが持っているアイデアや技術を、多くの場面で活用してもらいたいと思います。

志賀 大きなチャンスですね。

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