【目安箱/4月19日】処理水問題で見えた原子力世論の変化 正体は「枯れ尾花」か

2021年4月19日

ようやく東京電力の福島第1原発の処理水の問題が、解決に向かう。政府は、4月13日に処理水について2年後をめどに、薄めて海洋に放出する方針を表明した。(菅義偉首相記者会見)

◆問題先送りの原因は、安倍前首相か?

福島原発を視察した人は、敷地内の処理水の保管タンクの多さに呆れるだろう。一基数億円(東電は公表していないが)とされる巨大タンクが数百も乱立し、敷地を埋め尽くしている。二次処理まで行った水からは放射性物質が概ね取り除かれ、人体に有害性はないとされるトリチウムが主に残るのみだ。

この処理水を海に流すことが合理的な解決策である。どの国の原子力発電所でも、トリチウムを含んだ水を海洋放出している。トリチウムは水と分離できない。ところが福島第一ではトリチウムへの懸念や、風評被害を理由に問題の解決が先送りされてきた。

民主党の衆議院議員で、首相補佐官や環境大臣として福島復興や事故対策に関わった細野豪志衆議院議員が「東電福島原発事故 自己調査報告」(徳間書店)という政策提言をまとめている。その本で田中俊一前原子力規制委員会委員長との対談がある。ここで処理水の問題をめぐる重要な情報がある。

田中氏によると、原子力規制委員会は2014年ごろに経済産業省に、処理水の処分方法は海洋放出しかないと申し入れた。そして当時の経産大臣は田中氏に「私がやる」と約束、明言し、関係者の説得も進んでいると説明したという。13年から15年まで、経産大臣は5人いるが、それが誰かを田中氏は記していない。

経産大臣の上に指示命令のできる人は安倍晋三前首相しかいない。経産省が海洋放出を進める方針だったのにできなかったのは、安倍首相の意向が強く働き政策を止めたということになる。当時から、安倍首相は原子力をめぐる諸問題を先送りしていると批判されてきた。解決の機会があったのに、先送りをもたらしたなら、安倍氏の責任は大きい。このことについて安倍氏は説明すべきであろう。

◆政治家は問題を先送りした

安倍氏だけではない。研究者出身の田中氏は、この対談で、旧民主党、自民党の政治家・行政官の無責任体質や逃亡を批判し、「犯罪的」という強い言葉さえ使っている。福島事故の後に、食品衛生基準の放射線の過重な規制、福島の除染目標を1ミリシーベルトと低い数値にしたこと、福島原発の事故対策、原子力規制などで、田中氏は問題の見直しを政治家に訴えた。ところが政治家は解決のための決断を避け、先送りを繰り返した。それに福島の復興の遅れ、風評被害のまん延、対策費用の増加が起きたと、田中氏は主張する。

田中俊一氏と原子力規制委員会は、過重な規制を原子力事業者に与え混乱を引き起こしており、同氏の主張はおかしい点もある。しかし妥当なところもある。政治の不作為が問題を悪化させたという点だ。細野議員も、その批判を「難しかった」と、重く受け止めていた。

民主主義国家において、政治家だけで物事は決められない。政治家の行動は有権者の意思に左右される。政治家・行政の不作為も、民意が反映していた。14年時点では、確かに原子力に対する批判は大きかったように見えた。安倍氏が仮に問題の解決を先送りしたのならば、その批判を乗り越えられないと思ったためだろう。

1 2