【特集2】「夢の絆」オープンで他業界から注目 ニチガスが取り組むDXのすゝめ

2021年5月3日

「業務効率化の基礎となっているのが、スペース蛍で得られたデータです。見えてこなかった各ボンベの残量もデータ化されてフィードバックできることで、工場からデポステーションへの配送、デポステーションから各需要家宅への配送を可視化できました」(松田部長)。約90万件の需要家に設置するスペース蛍から得られるデータ件数は年間80億件。容量は10TB(テラバイト)に上るそうだ。

現段階でもかなり完成されたシステムに見えるが、既に夢の絆の完全無人化や、損傷したLPガスボンベを検出する予兆保守技術の導入も視野に入れているそうだ。これは、時代に合わせた新技術の導入を想定して、夢の絆の設計を行ったからだという。

「DXを進化させるアイデアは、細かなデータを得続けたことで初めて気付きますが、現場に設備を拡張する余地がなければ業務のDX化はそこで終わってしまいます。初めから完成形を目指すのではなく、システムを時代に合わせて進化させることが重要だと考えています」。松田部長はこう説明する。

バーコード管理でボンベは自動的に仕分けされる

設備をデジタルツイン化 さらなるセキュリティー強化

さまざまな新技術を導入するニチガスだが、設備導入を進める際のコンセプトの一つに「デジタルツイン」がある。

そもそもデジタルツインとは、実際の工場やインフラと全く同じものをデジタル空間上に構築してモニタリングやさまざまなシミュレーションを行うことで、実設備の改善に役立てることを指す。

ニチガスではスペース蛍がデジタルツイン化されており、端末で取得したデータと端末の位置情報に加え、送配電事業者からスマートメーターのデータを提供してもらい、電力消費量データとひも付けられた状態で各需要家別に仮想メーターをつくり可視化されている。

「デジタルツインで業務の効率化を図れるのと同時に災害対策でも役立ちます。これまで大規模な災害が発生した際、避難所に急きょ取り付けたメーターを社内システムとどう連携させるのかという問題がありましたが、デジタルツイン化したことで情報を可視化できます。さらに電力や都市ガスのメーターのデータも取り込めれば、需要家や現場をより詳細に管理することも可能です」(松田部長)

これらデータのセキュリティーについても、アクセス者の足跡が残りやすい「ゼロトラストアーキテクチャ」を採用。情報流出対策にも万全を期す。またスペース蛍などで得たデータはブロックチェーンによって管理することで、データへのアクセス履歴や、アクセス者の権限有無、悪意を持って行われた操作なども全て記録される。松田部長は「今のセキュリティーレベルに満足せず、さらなるリスク対策を行います」と語る。

さらに、ニチガスではデータ相互連携やデータベース(DB)管理にエストニアの電子政府で採用されている基盤技術「X-Road」を導入したプラットフォームを構築している。これにより、異なるDBに同一のタグをつけて管理することで、一度の更新内容が複数DBに反映されるという。

X-Roadを活用した同社プラットフォームは、既に引っ越し会社のポータルサイトで利用されており、さらに首都圏のある自治体でも実証的に導入されている。

夢の絆にもLPガス事業者向けの研修センターを設けるなど、ニチガスは競合他社とも共創の輪を広げていく構えだ。松田部長は「お客さまの利便性を考えると、プラットフォームは一社だけではなく多くの企業が使った方がいい。

他業種とも連携しながらDX化を図っていきたい」と語った。 紡ぎ出されたデータを最大限活用するニチガスの事例は、LPガスにとどまらず、電力、都市ガスなどでも参考になりそうだ。

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