【特集2】スマメ全件導入で進む変革への期待 電力データをスマートに生かす

2021年5月3日

安全・安心管理が大前提 運用費負担の議論を整理

江田 最後にスマメの今後の展望についてお願いします。

平井 安全・安心、そして快適・便利という二つの切り口がありますが、特に安全・安心面では災害時でのデータ活用への期待が大きいと思います。さらに別の切り口では、コロナ禍後のニューノーマル対応が挙げられます。外出を控える局面での在宅率はどうなのか。あるいは先ほど、現場作業のモニタリングについて触れましたが、スマメデータを活用した現地出向の省略で、移動時の感染リスクを低減する。そういった、多様な安全・安心を支えるインフラになり得ると思います。

 では課題は何か。まず送配電事業者が管理しているデータを、自治体やビジネスを手掛ける事業者に適切な形で提供できるような環境整備が必要ですが、その際の留意点が2点あると考えます。

 一つは、スマメデータは個人の世帯に密接したデータなので、万全の安全・安心の仕組みを用意すること。これについては昨年6月の電気事業法改正時に、国が認定し監督する一般社団法人を作り、ここで本人同意を確認の上、プラットフォームを通じて適切な扱いができる事業者に、個人データを提供する方向になりました。こうした仕組みをしっかりと国民に理解してもらうことが大切です。

 もう一つがデータを提供する運用コストです。送配電事業者が外部に適切にデータを提供するとなると、新たなシステムが必要ですし、また何日分もデータを保持しておく必要があります。直近の「持続可能な電力システム構築小委員会」では、22年に一般社団法人が設立され、23年から電力データ活用のシステムが運用開始されるような工程が示されましたが、社会の期待が大きいスマメデータ活用を計画通りにスタートさせるためにも、仕組みやコストの課題を今後の議論で整理しながら進めることが必要だと考えます。

必要な1分値のデータ 公共便益のため有効活用を

一色 住宅側からスマメへの期待を言いますと、新電力の方と話をしても、Bルートのデータを(旧一般電気事業者から)需要家側へ提供するサービスがあることを知らない人が多い。そうしたデータには高い価値があることを伝えていく必要があるなと感じています。

 生活側から見ると、先ほど言いましたが、1分値は欲しい。例えば「ブレーカーが落ちそうだ」、いわゆるトリップのときも1分値で分かるので、スマメ側から家側に伝えてくれたら事前にトリップを防げます。1分値のデータ全てをシステムに上げる必要はなく、ある程度のデータ処理をした段階で上げればいいわけです。

 システム側の方がビジネスとしても大きく、住宅側や利用者側の議論へと進みにくいですが、利用者側で価値が上がると、システム側でも利用価値向上のフィードバックがあると思います。その意味で、皆さんの知恵を集めて新しい時代を築いてほしいです。

渡邊太郎/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング ユニットマネージャー

渡邊 先ほど一色先生が言われましたが、日本全国の隅々に8000万件近いセンサーが付くことは、データ活用の側面では非常に意義があると思います。以前、ビッグデータを活用したいが、そもそもデータを集めるためのセンサー設置コストに莫大な費用がかかるとの話を聞いたこともあります。データの取り扱いには注意しながらも公共便益のために有効活用していく必要があると思います。

 将来的には、電気自動車メーカーのテスラが、ソフトウエアのアップデートを通じて自動運転などの性能アップを目指すように、日本の電力量計の精度に影響を与えないことを前提に、ソフトウエアをアップデートしていくような機能が普及するかもしれません。

 それから今、環境省主体で300ほどの地方自治体が脱炭素宣言をしています。人口で1億人を超えます。宣言後は、どのように脱炭素を実現するかが重要になります。その際に太陽光発電などの発電量が計測できるスマメデータは、地域の電力需給のバランスを正確に把握し、脱炭素に向けた自治体の取り組みを促進することに寄与できるかもしれません。

江田 本日はどうもありがとうございました。

えだ・けんじ アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社後、エネルギー・化学メーカーなどの業務改善プロジェクトなどに参画。2005年にRAUL(ラウル)を設立。

いっしき・まさお スマートハウス研究センター所長。前慶応大学特任教授。情報処理学会シニア会員、機械学会会員、IEEEシニア会員、ECHONETコンソーシアムフェローなどを務める。

ひらい・たかお 東京電力入社後、配電、営業、技術開発、人材開発などの業務に従事。東京電力パワーグリッド藤沢支社長を経て、現在グリッドデータバンク・ラボのチーフディレクターを務める。

わたなべ・たろう 北海道電力を経て2018年から現職。電力諸制度に関連する知見をベースに、国内の地域新電力会社の設立支援や再エネ由来水素の実証や調査を行っている。

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