【電力】自然エネ財団が提示 再エネ100%の世界

2021年5月18日

【業界スクランブル/電力】

3月に自然エネルギー財団が公表した報告書「日本の気候中立への自然エネルギーによる経路 2050年までにエネルギーシステムにおける排出ゼロの達成を目指す」を興味深く読んだ。フィンランドのラッペンランタ工科大学などとの共同研究であり、慣性力の扱いなど課題もあるものの、きちんと需給シミュレーションがされていると理解した。

2050年断面の自然変動電源の導入量は、産業用の高温熱需要の脱炭素化などに必要なグリーン水素を半分輸入に依存するメインシナリオでも、太陽光5億kW以上、風力は陸上と洋上合わせて1.5億kWと膨大だ。それでも1kW時当たりの発電コストが太陽光、陸上風力は5円以下で石炭火力の燃料費並み以下、洋上風力も7円以下という前提なので、北海道・本州間に1700万kWの直流ケーブルを新設しても、電力供給コストは現状よりも安くなる。原子力は20円以上で、モデルを回しても選択されない。

調整力は、水素製造のために設置される7000万kWの水電解装置が、恒常的に余剰となる再エネ発電に合わせて稼働するので、膨大な蓄電池が必要となるわけではないようだ。水電解装置の稼働率は報告書に記載はなかったが、挿入図から想像するに、冬場は相当の高稼働となっていそうだ。

このほか興味深かったこと。数字の記載はないが、挿入図から見るに、50年断面の電気事業は固定費の塊だ。可変費はせいぜい1割に見える。現在のような短期限界費用で価格が形成されるkW時市場では、大半の時間で価格はゼロに張り付いてしまい、費用回収はおぼつかないだろう。

財団が目指すカーボンニュートラルの世界では、市場はkW時中心からkW中心に移行していくのが、少なくとも自然だろう。財団関係者が4人中2人を占める内閣府の再エネタスクフォースが容量市場に反対し、エネルギーオンリーマーケットを対案に掲げているのは、筆者には奇妙に思える。目指す世界にあるべき市場とはどんなものか、聞いてみたいと思った。(T)