【特集2】「尼崎・久御山ライン」を新設 関西圏の供給安定性を強化

2021年6月3日

【大阪ガス】

大阪ガスは、兵庫県尼崎市と京都府久御山町を接続する高圧ガス導管の敷設工事を進めている。2028年9月にガスを開通する予定で、関西圏におけるガスの供給安定性の一層の向上を図る。

大阪ガスが整備を進めているのは、尼崎ガバナーステーション(兵庫県尼崎市)と久御山バルブステーション(京都府久御山町)を接続する全長47・4㎞の「尼崎・久御山ライン」。2020年4月に工事に着手し、28年9月のガス開通を予定している。

住宅や工場が増加傾向にある滋賀県の都市ガス需要の増大に対応するほか、摂津市など沿線エリアの中圧の供給安定性向上が期待できる重要なラインである。

最適な施工技術を選択 ガス工事で初のDRT採用も

パイプラインの管径は600㎜、設計圧力は7MPa。工事区間のうち、久御山町から交野市までの12・6㎞は、国土交通省が整備した通信、電力などライフラインをまとめて収容する共同溝を利用する。残りの34・8㎞は、交通量の多い道路や大規模河川を横断するために通常の開削工法によるガス管の敷設が難しく、シールド工法を採用することにした。

このうち共同溝区間では、既にガス管の敷設が始まっている。4月19日までに12・6㎞のうち9・4㎞の配管を完了している。共同溝への高圧ガス導管の敷設は同社にとって約20年ぶり。ネットワークカンパニー幹線部尼崎・久御山建設チームの村瀬賢マネジャーは、「経験が乏しい一方、この20年で新しい施工技術が開発されています。施工では、当時の資料を確認して現在の技術と比較して最適な方法を選択しました」と、工事着手に当たって入念な準備を進めてきたことを強調する。

共同溝の完成から5年ほどが経過していることが、施工により創意工夫が求められる要因の一つになっている。配管は、数百mごとに設けられている搬入口からガス管を搬入後、配管位置まで運搬し共同溝内で溶接するという作業を繰り返すが、共同溝が完成するまでの間に地上に道路ができるなどして利用できない搬入口もあるからだ。

共同溝の中でガス管を長距離運搬することになれば、作業員の負担増になりかねない。これを解決するため、モーター駆動の台車を製作し共同溝の中を早く、そして安全にガス管を運べるようにした。

一方、シールド工法区間は、深さ10~30mの地中に直径約2mのトンネルを造り、そこにガス管を通す。3~5㎞の間隔で全体を11区間に分け、発進と到達のための立坑を掘り、シールドマシンで掘削。トンネル完成後は、立坑からガス管を搬入し、シールドトンネル内を運搬、溶接するという、共同溝と同様の手法で配管していく。配管後は、トンネル内をセメントベントナイトで埋め戻し土中と同じ状態に戻す。現在は造成工事の段階で、今年秋ごろから順次掘削作業を開始する予定だ。

今回の工事では、国内のガス工事現場として初めてデジタルX線検査(DRT)を導入したことも大きな特徴。溶接が健全に行われているかを確認するための非破壊検査(X線検査)では、これまで写真用フィルムに画像を投影する必要があった。

それがDRTを採用したことで、1リング当たりの検査時間を40分程度(検査時間の55%)短縮できるため効率が向上するほか、データ伝送することで現場に赴かなくても事務所で画像確認できるようになった。「新型コロナウイルス禍で接触機会を減らすことが求められている中、検査効率の向上や現場管理業務の効率化にも資する良い品質管理システムだと自負しています」(村瀬マネジャー)

6年ぶりの大規模建設計画 技術継承の貴重な機会に

工事は、統括管理者である関雅之・幹線部長の下、現場責任者の村瀬マネジャーのほか、現場の施工管理などに当たる13人と、シールド工法区間の用地取得などを担当する6人の計21人が尼崎・久御山ラインの建設に従事している。このほか、共同溝区間の配管工事、ステーションの配管工事を日鉄パイプライン&エンジニアリング、JFEエンジニアリングが、ステーション建屋の建築工事に大末建設が携わっている。

シールド工法区間は、大林組、鴻池組&ハンシン建設のJV、鹿島建設、戸田建設の四つの建設会社、グループが担う。

屋外作業が多いとはいえ、1現場で10人ほどが同時に作業する。このため、工事会社と連携して新型コロナウイルス感染予防の対策も徹底。消毒液の設置や手洗い、うがいの励行、体温測定、打ち合わせ時のマスク着用、休憩所などでの多人数の使用の回避などに心掛けている。 

心配されるのが、これから気温が上がるため、マスクの着用で体温の上昇による熱中症のリスクが高まること。ファン付きの作業着を推奨するなど、少しでも作業環境を良くしていく考えだ。 尼崎・久御山ラインは、大阪ガスにとって、14年に開通した姫路・岡山ライン以来の大規模プロジェクト。村瀬マネジャーは、「技術は工事を経験し研究しながら蓄積されるもの。パイプライン建設の技術継承という意味でも、今回のプロジェクトは重要です。人口が多い都市部を通るということもあり、周辺住民のご迷惑とならないよう配慮しながら無事故、無災害で工事を完了させたい」と気を引き締める。