【特集2】日本の電力支える直流幹線 東西間の融通能力が向上

2021年6月3日

さまざまな工夫で 環境配慮と短工期を両立

一方の飛騨信濃直流幹線の建設は、交直変換設備から遅れること1年、17年3月に着工した。新信濃から飛騨まで亘長89㎞(岐阜県側53㎞、長野県側36㎞)の直流送電線で、敷設に当たって197基の鉄塔を建設した。双極一回線の送電線であり、鉄塔の高さは48mと交流設備よりも比較的コンパクトにできることが特徴だ。

建設工事は、非常に厳しい環境の中で進められた。というのも、この直流幹線は、最高標高が野麦峠の1852m、平均でも1154mという高地で自然度の高い山岳地帯を通過している。 冬季は積雪のために工事を中断しなければならないのに加え、夏季もクマタカやオオタカといった特定猛きん類の営巣地を避ける必要があるなど、さまざまな制約の中での作業となった。

「景観や自然環境に配慮しつつ、さまざまな工夫を凝らしたことで3年7カ月という短工期を実現できました」と語るのは、工務部送変電建設センター東西連系線長野建設事務所の安藤雅彦所長だ。

例えば、道路もない建設現場への資材運搬にヘリコプターを活用したり、林道から鉄塔までモノレールを敷設し資材の運搬だけでなく作業員の通勤の足としても利用することで作業員の負担軽減を図った。建設作業員も、ピーク時には1日で700人程度が作業に従事し、延べ30万人が建設に携わっている。短期間に集中して大規模な工事が行われたこともあって、作業員の確保に注力。社内ではほかの現場で行う工事時期をずらすなどして直流幹線の工事を優先的に進めたほか、工事会社にも直流幹線工事に人員を最大限回してもらうよう配慮してもらったという。

鉄塔建設も、中央一本深礎基礎と呼ばれる工法を可能な限り採用。安全性は担保しつつ、作業員にかかる負担を減らすさまざまな工夫を重ね、通常なら10年掛かるともいわれた難工事を完遂した。

送変電建設センターの齋藤賢介所長は「現場からは21年3月に運開するというスケジュールには『不可能だ』との意見も出た。それをどうやったら可能になるのかを各社と相談しながら、工事を進めました」と振り返る。


(上)電気の高調波を取り除く交流フィルター (左下)設備の心臓部・サイリスタ式周波数変換装置 (右下)齋藤賢介所長

東西の交直変換設備と直流幹線を合わせた総工費は1300億円。費用は沖縄を除く9電力で負担する。さらに今後は、300万kWまで変換能力を増強することが決定しており、27年度の運用開始を目指し計画が進められている。

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