【特集2】災害対策・省力化に注力 九州一円を守る日向幹線整備

2021年6月3日

【九州電力送配電】

九州の南北をつなぐ基幹送電網「日向幹線」の整備が、着々と進行している。50万V幹線がループ化することで、九州全域の電力系統レジリエンスは大きく向上する。

九州電力送配電管内では、九州全域の電力系統のレジリエンス(強靭性)を高める上で重要な鍵を握る「日向幹線」の整備が山場を迎えている。

日向幹線は、大分県臼杵市の東九州変電所と宮崎県木城町のひむか変電所を結ぶ、総延長124㎞の50万V基幹送電線。これまで管内の50万V幹線では、福岡県筑前町にある中央変電所と、鹿児島県伊佐市の南九州変電所を結ぶ「熊本幹線」(81㎞)、「中九州幹線」(40㎞)、「南九州幹線」(80㎞)が九州の南北の安定供給を担ってきた。既設幹線も経年が進み、22年下期から30年代初頭にかけて電線やその支持金具など各種設備を更新する工事が予定されている。

更新工事が行われる間、幹線の2回線のうち1回線は停止しなければならない。更新工事中に落雷などで残る1回線の送電がストップしてしまった場合、電力系統が分断され、大規模停電が起きる可能性がある。こうした背景もあり、九州のレジリエンスを向上させるべく日向幹線の建設計画が立ち上がった。

台風に悩まされた幹線整備 省力化へ各種方策を施行

計291基の鉄塔建設と鉄塔間に電線を張る架線工事を行うためには、当然ながら大量の資材を現場に運搬しなければならない。とはいえ建設予定地の大半は九州山地の険しい山岳地帯で、いずれも交通網が貧弱な地域。工事に当たり九電がまず行ったのは、資材を輸送する道づくりだった。

14年から道路整備に着手してきたが、自然災害が九電の行く手を阻んだ。

15年に発生した台風の影響で、整備した搬入路の多くで崩落が発生。長期間にわたって工事を中断しなければならない事態に直面した。当初は19年6月の運開を計画していたものの、16年2月に完成予定を22年6月に延期するという苦渋の決断を強いられた。

さらに昨今は少子高齢化で社会構造が変化したことにより、工事会社作業員の高齢化も深刻な問題となっている。将来の施工力が不足しないよう、省力化をどう図るかということも、幹線を整備する上で大きなテーマとなった。

その対策として、作業員の動作をアシストする専用の器具を導入した。そもそも鉄塔を建設する際は、まず基礎を施工するために穴を掘削する必要があり、作業員は穴の中で作業をしなければならない。この穴への昇り降りも結構な労力になることから、昇降動作を補助する器具を一部の工区で採用した。この施策は「労力軽減になる」と、作業員からも好評だったという。

昇降アシスト装置も導入した

架線工事では、先に鉄塔間にロープを通す工程がある。通常はヘリコプターを飛ばして作業するが、ヘリを飛ばせないような場所ではドローンで作業を代替する取り組みもあったという。ほかにも資材の搬入には道路以外にも索道やヘリを活用。作業員を確保するために、工事量が1年間で最も少ない夏場に集中させるなど、滞りなく工事を進めるためにさまざまな知恵を働かせた。

また工事を行った山間部には、クマタカなど特定猛きん類の営巣地や、希少植物の生息が確認されたエリアがあった。これら動植物の生育に影響が出ないよう自然環境に対しても、細心の注意を払いながら工事を進めている。

幹線整備で体制は盤石に 整備完遂に向け前進

現在は22年6月の運開に向けて最後の架線工事に取り掛かっている段階で、5月末時点の工事進捗率は95%。5月末までに鉄塔工事を全て終えた後には、11月までに架線工事を終える計画。その後は設備の使用前自主検査を半年かけて実施し、6月に幹線に電気を通す事前試験を行ったのちに運用する予定となっている。

工事を管理する九州電力送配電・延岡送変電工事所の小笠原博所長は「日向幹線が最後の50万V幹線。きちんと工事が行われれば基幹送電網は盤石のものになる」と語る。残されている工程を着実に進め、九州一円の50万Ⅴ幹線のループ化に向け、安全の確保を大前提に、努力を重ねていく構えだ。