【特集2】ガスネットワークの集大成 着実に歩んだ究極への道

2021年6月3日

【東京ガス】

今年3月、安定供給の鍵を握る茨城幹線と日立LNG基地の2号タンクが運開した。ループ化と分散化による1000㎞超のネットワークは、まさに「究極」と言っても過言ではない。

東京ガスは今年3月11日、「日立LNG基地2号タンク」と、茨城県神栖市と同県日立市をつなぐ「茨城幹線」の運開を発表した。

同社は10年以上の歳月をかけ、北関東エリアで高圧幹線の整備を進めてきた。2012年には千葉県内にある導管網を鹿島臨海工業地帯まで延伸する千葉~鹿島ライン(約80㎞)、15年には埼玉県から茨城県に延びる埼東幹線(約40㎞)、16年には茨城~栃木幹線(約80㎞)、17年には古河~真岡幹線(約50㎞)が完成。都市ガスのもととなるLNGの受け入れ基地についても、茨城県日立市に日立LNG基地を16年に運開するなど、供給安定性の向上や供給ネットワーク全体の輸送能力を向上させるべく、ネットワーク網を構築してきた。

これら取り組みの集大成ともいえるのが、日立LNG基地と鹿島臨海工業地帯をつなぐ茨城幹線であり、日立LNG基地の2号タンク増設だ。92・6㎞にわたる茨城幹線と日立LNG基地の2号タンクが完成したことで、北関東の導管網がループ化され、四つのLNG基地の相互バックアップによる供給安定性の向上、ガス輸送能力の増強を実現した。

日立基地のタンク増設 省力化工法を初採用

日立LNG基地2号タンクの容量は、1号タンクと同じ23万㎘。国内でも屈指の大容量を誇る。工事は18年4月に着工したが、工事に当たっては、供給安定性の向上、ガス輸送能力の増強をより効果的にするためにも、茨城幹線と同じ21年3月の完成を目指した。

LNGタンクは、マイナス162℃のLNGを貯留する内槽部と、それを囲むコンクリート製の防液堤の2層で構成される。このためタンクを建設する際は、まずコンクリート製の防液堤を構築、次に内槽部の工事に取り掛かる。内槽部も積み木のように下部から上部へ側壁を構築し、最後にふたをして内槽部が完成するという手順を踏む。従来工法では内槽部と防液堤の工事は同時並行で進めることができず、時間がかかるという課題があった。

この課題をクリアするべく、IHIの「JCM(ジャッキ・クライミング・メソッド)工法」と、鹿島建設の「P3wall工法」という二つの新工法を初採用した。

「JCM工法」は、屋根と内槽部の側壁をジャッキで持ち上げて1層ずつ積み上げていく工法で、防液堤工事と並行して工事を行える特長がある。

さらに「P3wall工法」は、防液堤建設のために現場でコンクリートを打設するのではなく、高層ビルなどの施工で用いられるプレキャストコンクリート(PC)を用いて構築する工法。工場で製造したPCを積み上げて防液堤を構築することから、省力化や天候に左右されず作業を進められるなどのメリットがある。

これら工法を積極的に採用したことで、2号タンクの建設は従来工法と比べて約7カ月も短縮することに成功した。東京ガス・エネルギー生産部生産企画グループの小菅惇担当課長は「当社としても初めて採用した工法だったが、事故もなく円滑に工事を進められた。23万㎘のタンクとしては国内最速の28カ月で完工した」と語る。

さらに工事のピークを迎えた20年にはコロナ禍が世界中を襲った。当初、現場では工事を中断するのか否か大きな議論にもなったというが、消毒やソーシャルディスタンスの徹底、密集状態の回避などの対策を取りつつ工事を継続。工期に影響もなく、感染者数ゼロで工事を終えられたという。

丁寧な地元対応を継続 困難乗り越え究極の導管網

茨城幹線の建設でも、工期短縮やコスト削減に向けて創意工夫を重ねた。

都市ガス導管は多くの場合、道路に埋められて敷設される。そのため導管を埋設する道路が国道、県道、市道なのかによって、管理者が異なる。特に敷設する道路が国が管理する直轄国道の場合、道路上に作業帯を設置する開削工事は交通機能を低下させてしまう恐れがあるため、占用許可の取得が難しい。

その場合、代替ルートを選択するか、または道路に沿う形でのシールド工法による敷設となるが、いずれもコスト増や工期の延長につながる課題が生じる。東京ガス担当者は道路上での作業帯設置について、片側2車線道路は、1車線にとどめること、また片側1車線の道路は、交通機能を低下させないように作業帯設置方法を工夫し、代替ルートがない一部区間のみを幹線のルートにすることで、国道の占用許可を取得した。

道路占用許可にも力を割いた

また、沿線地域の鹿嶋市や鉾田市、ひたちなか市などはLPガスが供給されているエリアだ。それだけに道路を開削して行う都市ガス工事に対する認知度があまり高くないという問題もあった。そのため、建設事務所の所員が中心となって沿線ルートの自治会や、数千戸にも及ぶ一般民家に対して戸別訪問しながら工事の説明に回った。さらに一部自治体からは工事手法や安全性などについて説明を求められると、議会に赴き計画内容について説明をしたという。

こうした多くの工夫を重ね、今回の工事は従来の同規模の幹線と比べ、約1・3倍の進捗率で推移した。防災・供給部幹線グループの小金丸健一課長は「行政や沿線にお住まいの方々へのご説明などに真摯に対応し続けることが大切であり、予定工期内での完了にもつながった」と話した。

さまざまな困難を乗り越えて系統が連結したことで、東京ガス管内ではこれまでの千葉、東京、埼玉、神奈川を結ぶ東京圏のループに加え、茨城、栃木、群馬、埼玉を結ぶ北関東の大きなループが構成されるようになった。1000㎞を超える究極のガスネットワーク網は、飽くなき挑戦と、地道な努力の積み重ねによって成り立っている。