安定供給のためにできる備えを 橘湾発電所で津波防護設備が完成

2021年6月9日

【四国電力】

紀伊水道を臨む小勝島に立地する橘湾発電所は営業運転を開始して21年目を迎えた。今年2月、巨大な地震・津波を想定した防潮堤が完成した。

橘湾発電所は四国の南東部、徳島県阿南市の小勝島に立つ。太平洋に面した四国最東端の蒲生田岬から大きく回り込んだ、紀伊水道の湾内に位置する。

小勝島の西側を埋め立てて建設され、2000年6月に営業運転を開始した。四電が23万㎡、電源開発が36万㎡を保有し、共有部分が約5万㎡ある、共同立地の発電所だ。

四国電力 橘湾発電所

四電側の出力は70万kWで、同社の発受電電力量の約15%を占める。ベースロードとしての役割に加え、近年では再生可能エネルギー増加などに伴う需給調整の役割も担う主力電源だ。今年2月、約3年の歳月をかけた津波防護設備の設置工事が完了した。

四国地方は、南海トラフ巨大地震や、東南海・南海地震が予想されるエリアだ。このため四電は、04年に「東南海・南海地震対策検討委員会」を設置し、10年度まで、従来の想定に基づいた地震と津波対策に、全社を挙げて取り組んできていた。

本店では非常用電源を確保したほか、四電エリア内の送電線支持碍子などに免震対策を施し、復旧資機材や衛星通信設備を増備。停電にも備え、徳島県南部地区の早期復旧のため、送電線の張り替え工事を行った。

東日本大震災で想定見直し 防潮堤の追加工事を実施

ところが、11年に東日本大震災が起こり、政府は「あらゆる可能性を考慮した巨大地震・津波について検討が必要」とし、最新の科学的知見に基づいて検討が行われた。中央防災会議では従来の想定を大きく上回る被害想定を発表。東日本大震災の被害状況からも、津波は浸水だけでなく、波にのまれた建物や車などの漂流物による被害が出ることが分かり、四電は発電所全体を囲う防潮堤が必要だと判断する。

小勝島を埋め立てて建設した橘湾発電所は、高潮対策として海面から4.5mの高さにかさ上げして建設している。だがあらゆる可能性に備えるため、隣接する電源開発と情報連携しながら、地震・津波対策の追加工事を実施することにした。

橘湾に回り込む津波のシミュレーションを行うなど、専門家を交えて計画を立て、18年に工事を開始。場所に応じて高さ2.5〜3.5m、全長約1500mの防潮堤で囲い込む工事になった。

建設は土地の状況などに応じて、①鋼矢板、②親杭横矢板、③重力式擁壁、④盛土固化、⑤逆T式擁壁―の5方式を採用。

主に幅0.9m、長さ9mの矢板を地面下に約6m打ち込む、①の鋼矢板方式で進めた。配管などの埋設物がある場所では、約2〜7m間隔で打ち込んだ親杭で水平方向に設置した矢板を支え、埋設物を跨ぐ、②の親杭横矢板方式を取った。

設置スペースが広く、地盤の支持力が十分にある場所では、③の重力式コンクリート擁壁で建設。約2〜3mの厚みをつくり、躯体の重量で外力に抵抗する擁壁とした。

親杭横矢板方式

重力式コンクリート擁壁

そのほか、防潮堤設置以前からある盛土を有効活用する、④の盛土固化方式や、主要道路や既設機器に隣接し設置スペースが取れない場所では、⑤の逆T式擁壁方式で建設を進めた。

こうして、矢板や鉄筋など約1000tの鋼材と、約4000㎥のコンクリートを使い、約3年をかけた津波防護設備設置工事が完了した。

鋼矢板方式の防潮堤前に立つ高橋所長

常に想定外への備えを 訓練で災害適応力を高める

阿南火力事業所長を兼務する橘湾発電所の高橋尚司所長は、自然災害は想定外のことが起こり得るとし、「ハード面の対策が完成しても安全には謙虚に向き合っていきたい。新たな知見を取り入れながら、これからもできる備えをしていきます」と気を引き締める。

地震が発生した際、設備を安全に止め、点検して復旧するまでをいかに正確に迅速に行うか―。

高橋所長は従業員だけでなく、関係グループ会社や協力会社に対しても災害対応の適応力を高めたいと言い、被災時の復旧体制の整備や、定期的な防災訓練、避難訓練などを行って、避難場所や避難経路を再確認することにも力を注いでいる。 四国電力は日々の安定供給に努めながら、いつ起こるかもしれない自然災害についてもできる備えに取り組みつつ、これからも持続可能な地域社会に貢献していく