【コラム/7月12日】経済財政運営と改革の基本方針2021を考える〜米国要求薄き時代、ポストコロナの経済社会ビジョンを描けるか

2021年7月12日

飯倉 穣/エコノミスト

1,欧米開発のワクチン投与進展で、新型コロナパンデミックの収束が期待される中、菅義偉内閣初の「経済財政運営と改革の基本方針」が閣議決定された(2021年6月18日)。コロナの影響を抑制しつつ、デフレに戻さず、外需取り込み、政策総動員で経済回復、成長と雇用・所得拡大の好循環を目指す。アベノミクスの考えを踏襲する。

報道は、中身の真偽判定に戸惑う。「経済・財政 描けぬコロナ後 骨太方針、歳入の議論できず」(日経同19日)「菅政権初の「骨太方針」選挙念頭財源論先送り、目立つあいまい記述」(朝日同)。政策転換なき経済財政運営を考える。

2、基本方針は、小泉純一郎内閣で、骨太の方針として出発した(01年)。市場重視の構造改革で日本経済の再生を企図した。不良債権問題処理、構造改革7プログラム(民営化・規制改革、チャレンジャー、保険機能、知的資産、生活維新、地方自立、財政改革)、政策プロセス改革で、デフレ脱却、民需主導成長を目指した。

経済(01〜07年度)は、米国向け輸出増、金融緩和・資産価格効果、公債残高増150兆円で、GDP実質成長率1.5%/年、失業率低下(5.4→3.7%)となった。リーマンショックで虚構判明となる。目標は、経済改革でなく自民党内の力学変更であった。 

3,第一次安倍晋三内閣「美しい国」(07年)、福田内閣「開かれた国・全員参加成長」(08年)、麻生内閣「安心・活力・責任」(09年)の方針は、劇場効果なく、短命内閣の掛け声倒れだった。

民主党政権(09年)は、ビジョン「コンクリートから人」で事業仕分けに注力し、官僚を疎外、試行錯誤に終始した。東日本大震災由来の原子力事故で、責任・犯人捜し(国会事故調)に奔走し、日本的エネルギー政策を頓挫させた。地球環境問題で今日の迷走を生む。それでも経済は動く(09~12年度実質成長率1.4%)。

4,第二次安倍内閣(12年)は、脱デフレ・経済再生を掲げ、マクロ経済政策(三本の矢)で、成長率名目3%、実質2%実現を公言した。理論通り金融緩和は資産効果、財政出動は乗数効果のみで、成長の引き金にならず、14年以降政策課題の打上げ花火となった。岩盤規制改革、ローカルアベノミクス、まち・ひと・しごと創生、女性活躍、IT・ロボット、新三本の矢(600兆円経済等)、一億総活躍、働き方改革、コーポレートガバナンス強化、人づくり革命、生産性革命Soceity5.0、人生100年時代等々の用語が飛び交った。

アベノミクスは、量的金融緩和、公債残高181兆円増で、GDP実質成長率0.9%/年、失業率低下(4.3→2.2%)となった。19年10〜12月期にGDP△1.9%となり崩壊する。

5,菅内閣の基本方針2021は、米中対決等の環境の中で、カーボンニュートラル宣言を踏まえ策定された。短期は新型コロナ感染拡大防止対策、コロナ後は、経済均衡を持続的成長で取り戻すとする。経済成長策として新たにグリーン化、デジタル化、地方の所得向上、子供・子育て支援を4原動力と捉える。またコロナで更に傷んだ財政に対し「経済あっての財政」の考えで600兆円経済の早期実現を強調する。

幾つか留意点を述べよう。現経済の落込みは、感染が収束すれば、経済はほぼ元の水準に回復する。経済的にはコロナで大きく影響を受ける人への対策で十分である。

経済は、コロナ影響のサービス産業を中心に供給過多が目立つ。今後資産価格バブルと破綻状態の財政に不安がある。かつ財政赤字分は需要超過で、拡大均衡がなければ、厳しい調整となる。

成長の可能性は、技術革新体化の独立投資次第である。グリーン化の前提となるエネルギーが、安価、大量、安定供給であれば、成長期待となるが、補助金頼り(含むFIT)では、期待薄である。デジタル化は、政府部門の経費削減となれば、財政均衡に幾分貢献する。現状明確でない。地方創りで、多彩な項目(人材仲介等)を挙げるが、地域の実情から期待薄である。子供・子育て支援は、社会政策である。故に提示の4原動力は心もとない。 

基盤づくりの政策項目として教育の質、研究基盤、女性活躍、若者活躍、セーフテイーネット、多様な働き方、経済安全保障、経済連携、対日投資促進、外国人受け入れ、国際金融センターを掲げる。多くが過去の焼き直しである。

経済変動の現実、経済均衡の姿、経済成長の基本、財政の現状から、実質600兆円経済は、心意気ならよいが、画餅であろう。

6,過去の基本方針は、経済変動の前に誤信か有害無益だった。意味は、下降局面の緩和効果程度に止まる。では何を目指すべきであろうか。国民経済の考え方に則った雇用重視の経済運営である。とりわけ企業経営の在り方である。構造改革で行われた一連の会社法制は、日本企業の活力に結びついていない。例えば社外取締役の強制等は不要である。

今回方針も「コーポレートガバナンス改革を進め、我が国企業の価値を高めていく」と記す。東芝のように極端でないが、多くの企業は、投機金融対象となり、短期志向の経営に追われている。雇用切り捨て・利益創出の姿が、豊かさに貢献するだろうか。米国要求対応の橋本政権、小泉政権、迷妄の安倍政権のマクロ経済運営の考え方、企業行動への対応、構造改革の悪影響を見直す時期であろう。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。