【目安箱/7月7日】エネ業界を直撃する 中国製太陽光の輸入問題

2021年7月7日

米政府は6月24日、ウイグルの強制労働問題に関連して、太陽光パネルを主に作る中国企業5社の製品輸入を規制した。今後太陽光の状況に大きな影響を与えそうな問題だ。日本のエネルギー業界も、中国から離れる「決断」を迫られるかもしれない。

◆バイデン政権、上流部分の中国企業の対米輸出禁止

バイデン政権は6月24日、合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)、新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)、東方希望集団(イースト・ホープ・グループ)傘下の新疆東方希望有色金属、新疆協鑫新能源材料科技(新疆GCLニューエナジーマテリアルテクノロジー)、新疆生産建設兵団(XPCC)の太陽光パネル関連の中国5社を制裁対象にすると発表した。

米税関・国境警備局が、強制労働に基づく製品の輸入を差し止める「違反商品保留命令(WRO)」を出した。米商務省は6月24日、米国製品や技術の輸出禁止対象に指定する「エンティティー・リスト」に、ホシャインなどを追加した。同省によると、ウイグルでの人権侵害の疑いで同リストに記載された中国企業・団体は、トランプ前政権時の措置を含めて計53となった。これにより、これらの企業の製品を使った商品は、米国に輸入できなくなる。(米ホワイトハウス発表)

太陽光パネル製造は3段階に分かれる。「1・金属精錬」石英を採掘して高温で精錬しシリコン金属を作る、「2・結晶製造」シリコン金属を融解し再結晶させて結晶(ポリ)シリコンを作る、「3・パネル製造」結晶シリコンを切断し、化学処理して、電極等を取り付けてパネルにするという3段階だ。

このうちホシャインは、金属精錬の大半、推定で全世界生産の6割程度を占める。残り3社はポリシリコンをウイグル地区で製造している。英国のシェフィールド・ハーラム大学のウイグル強制労働をめぐる報告によれば、2020年のポリシリコンの全世界の生産で、中国製75%、そのうちウイグル人居住地区での生産が全世界比で45%を占める。

米政府は、製造の流れの上流部分を制裁にした。どのような人権侵害があったかは、明らかではない。米中関係はバイデン政権になっても、前トランプ政権と同じように、良好とはいえない。そしてウイグルでの人権侵害を中国政府は認めていない。この措置は適応され続けるだろう。そして中国も対抗措置を発動するとみられる。

◆太陽光のコスト上昇へ

米国は2018年から、トランプ政権下で、中国製の太陽光パネルの同国への輸入に関して、不公正貿易慣行を理由に輸入制限を課し、高い関税をかけていた。そのために中国製が米国内で流通せず、太陽パネル価格が上昇していた。

太陽光パネルは価格それまでも上昇していた。1W当たり、太陽光パネルは現在35円前後、ドルで0.3ドル前後に上昇。1年前の約3割増だ。20年夏、新疆地区のシリコン工場で事故が相次ぎ、シリコンが品薄になったという名目で、中国企業が値上げした。米国で禁輸が行われても、中国企業は日本向け価格を下げていないという。中国国内の需要が旺盛でそれに製品を回しているのかもしれない。

日本は2000年前後には太陽光発電パネルの生産で世界のトップだった。その後に中国に抜かれてしまった。現在日本の太陽光パネルの出荷では海外生産品は81%を占める、がその大半は中国製だろう。

この10年、太陽光発電の建設が大きく伸びたのは中国と日本だ。再エネシフトと各種補助金が続いているためだ。中国の太陽光パネル産業の拡大は、日本が支えた面がある。仮にウイグル人への中共政府による人権侵害に、日本の補助金、特に電力料金から強制的に徴収される賦課金が使われていたら、日本の消費者は、誰もが不快に思うだろう。

相変わらず、小泉進次郎環境大臣等のズレた政治家が与野党問わず、太陽光発電の拡大を叫んでいる。しかし、その拡大を進めると、日本がウイグルの人権侵害に間接的に加担してしまうかもしれない。

◆日本はどうすれば良いか

ここで日本は太陽光パネル問題で、どうすればよいかの問題が出てくる。米国だけではなく欧州でも、中国のウイグル人弾圧は問題視されている。同じような禁止措置をとれば、日本の太陽光の建設費用は高くなり、その建設も一服するだろう。

私は、日本の官民の調査を経て、また各国の当局と連絡を日本政府が取った上で、人権侵害があれば規制を何らかの形でかけるべきであると思う。筆者の知る限りでは、日本の法令上、人権を名目に直接的に輸入規制をかけるものはなさそうで、特別立法が必要な手間のかかる問題になるかもしれない。また事業者の方には負担になるだろう。それでもやるべきであると思う。

理由の第一は、太陽光発電の支援策を導入する際に、日本の場合には「倫理」が強調された点にある。太陽光発電は、「悪い原発の代替策」、「環境に優しい発電」と、2011年の段階で導入した民主党政権と当時の菅直人首相は強調した。それは事実と違うが、導入時にはそう思って導入を認めた人は多いだろう。太陽光の支援策の導入に熱心だった人たちが、なぜか中国のウイグル人への人権侵害を批判しないのは不思議だ。

電力使用で強制的に徴収される再エネ賦課金(20年で1世帯当たり平均月約1500円)という事実上の税金の一部が中国企業の懐に流れる。「人のため」という倫理的意味を込められて導入支援策が作られ、日本で拡大した太陽光発電が、仮にウイグル人の人権侵害を支援しているというのは明らかにおかしい。

第2に、人権問題とはずれるが、輸入規制は太陽光発電の増加を一時的に抑制する効果があるためだ。筆者は決して、再エネや太陽光発電を否定していない。将来性のある意義深い発電方法であると思う。しかしその急拡大によって多くの問題が発生している。

7月3日に、静岡県熱海市で行方不明20人の発生する大規模な土石流災害が発生した。痛ましい話だ。この原因は、執筆時点で不明だが、山間部に産廃が埋められ、周辺に太陽光発電所が作られ森が伐採されて山の保水力が低下し、それが流れ出したことが原因かもしれないと懸念されている。危険な太陽光発電所の工事は全国で報告されている。補助金が影響した太陽光発電の拡大を、一旦止め、日本社会における適切な形を模索する時間が、民間も行政にも必要だ。中国製パネルの使用抑制は、そのきっかけになるだろう。

第3に、これも人権問題から外れるが、日本の太陽光パネル産業の復活に役立つかもしれないからだ。採算性がないため、日本企業は太陽光パネル生産から次々撤退してしまった。しかし、世界で中国製が使われなくなれば、日本企業は再び世界に太陽光パネルを供給できるようになるかもしれない。

中国製の太陽光パネルを使わないことは、長期的には日本に経済的利益をもたらすだろうし、倫理上の正しい消費の姿も確保できる。SDGs(持続可能な開発目標)がブームなのに、なぜか中国の行動に沈黙する人たちが多い。今こそ、おかしなことに、「おかしい」と、政治活動家ではなく、普通の人が声を上げるべきではないだろうか。