カーシェアで新しいマイカーの暮らし EVで生活者の脱炭素をスムーズに

2021年8月6日

【九州電力】

九州電力はテスラなどのEVを、マンションの入居者限定でシェアリングする事業を開始した。

マンションの環境価値を上げ、電化の推進による快適で脱炭素な暮らしが始まっている。

 九電社内で新規事業や新サービスの創出を目指す「KYUDENi―PROJECT」(iプロジェクト)。電気事業に限定せず、世の中の課題に立ち向かい、未来を明るく変える新しい取り組みを形にする目的で始まった。既に複数の案件が事業化され、社内を活気付けている。

iプロジェクトが発足したのは2017年、その初年度の案件として採用されたのが、EVのシェアリングサービスだ。検討を重ね、1年間の実証実験を経て20年12月から、EVシェアリングサービス「weev」として事業を開始した。

weevは、「マンション入居者(we)が利用できる電気自動車(ev)」というコンセプトで名付けられた。新築分譲マンションにEVを導入し、入居者だけが利用できるサービスだ。

weevのコンセプト

敷地内に停めているので、重い荷物がある時や小さい子供がいても階下で乗り降りできる便利さも特長になる。駅までの送迎や買い物など短時間の利用や、休日のレジャーでの活用を想定している。

15分で220円(税込)が最低の時間料金で、この時間料金に加え、1kmの走行につき5.5円の距離料金が加算される。また、6時間、12時間などのパック料金があり、最大3日間の利用が可能。大手カーシェアサービス会社の場合、車を利用しなくても月額の基本料金が必要だが、weevは利用時のみの料金で、距離料金も大手の半分以下というリーズナブルな設定になっている。

利用方法はスマホに専用アプリをダウンロードして、最初に免許証や支払い用のクレジットカード情報など必要事項を登録する。アプリには入居するマンションに配備されている車体が表示され、1カ月先までの予約ができる。鍵の開閉もアプリで行い、利用後に充電ケーブルを車体に挿さないと終了ボタンが押せない仕組み。これにより充電忘れを防ぐ。

アプリの予約画面

満足感と安心感の付加価値 EVでオール電化を進める

導入する車種は、現時点では「テスラモデル3」と「日産リーフ」の2車種。事業の発案者が自分の身近で、利用したいサービスを考えた。そして、社会によい影響を与える取り組みにしたい、とEVにこだわった。テスラモデル3については、国内ではまだ珍しく、カーシェアとはいえ入居者限定で“所有”し利用できることは大きな魅力で、満足度も高い。日産リーフを導入するマンションでは、災害時に放電できる安心感を付加価値としてアピールできる。

weevを導入予定のマンションでは、EV付きのマンションに入るので自家用車を手放す、という声があったそうだ。生活スタイルは変わらず、洗車や車検の手間もかからなくなる上、無理なくCO2削減につなげられる。

weevは首都圏などでも導入が進み、8月からは都内の新築マンションでの利用が始まる。首都圏などの都市部では、数万円単位の駐車場代がかかるため、車を持つことを諦めることも多く、カーシェア自体のニーズが高い。

EV付きマンションは環境価値を高めるので、デベロッパーからの引き合いも多く、今後建設予定の複数のマンションで既に導入が決定している。

コーポレート戦略部門・インキュベーションラボでweevを担当する藤本尚之氏は、24年には少なくとも100台程度は導入したいと話す。「マンションやデベロッパーとの接点を生かした、新しいサービスも作っていきたい」と、weevをきっかけとした展開も考えている。

今後は既設マンションにも専用EVの新しい暮らし

マンションへのEV導入は、充電器の設置も含め建設時に行うのがスムーズだが、九電は今後、既設マンションへの導入も検討する。オール電化の推進という位置付けで、大型電気製品であるEVやEVインフラ設備、スマートメーターの活用も含め、電力会社として今後何が提案できるかを探る。

同ラボの平尾元氏は他業界との連携の中で、「一緒にやってよかったと言ってもらえる事業に発展させていきたい」と意気込む。アメリカではテスラが自宅から目的地までほぼ自動運転することから、「日本の法規制が世界に追いついた時、どんな世の中になるのか。環境適応させながら人々の未来に貢献できたら幸せ」と、weevがともにある未来の暮らしを思い描く。

実証実験では、利用者を限定せずテスラのカーシェアを行ったところ、遠い他県から乗りに来るほど注目を浴びたそうだ。EVに乗りたいというニーズを掘り起こし、EV普及のシーズをつかんだ実証となったに違いない。

weevは2050年カーボンニュートラルの世界に向けて、生活者が快適さを失うことなくCO2削減の暮らしにシフトできる大きなきっかけになることだろう。

九電は“新しいマイカーのある暮らし”をつくり、先駆者の役割を担っていく。

インキュベーションラボの平尾元氏(左)と藤本尚之氏