【特集2】「高温化」実現への期待 世界に誇る日本の技術力

2021年9月2日

―さて、需要家側にとって、イニシャルコスト面以外で、どのような課題があるでしょうか。

齋藤 ユーザーにとって「CO2削減がメリット」という点が不透明です。加えて電気式ヒートポンプを導入した場合、どれだけの優位性やメリットがあるか、きちんと理解し切れていない面があります。特に排熱利用のヒートポンプ設備だと、生産プロセスの都合による排熱の影響を受けます。また、たまたま冷夏で機器効率が良かったのか、その因果関係の立証が難しい。ですので、その解決策になればと、年間で一体どれだけの効果を発揮するのか、そんな答えを出せるような、エネルギーフローのシミュレーションソフトを今開発しています。

多様なHP技術開発が進む(電力中央研究所の研究所内)

新ソフトで簡便に可視化 エアコンの意義啓発

杉山 一足飛びに難易度の高い産業プロセスへの導入は難しいでしょう。また強引に導入を進めようにも、後が続きません。まずは導入しやすいところから進めていくべきです。繰り返しますが、まずは家庭用のエアコン。暖房効率が良く、イニシャル・ランニング費含めてリーズナブルだ、ときちんと伝えることから始めるべきです。

―エアコンやエコキュートといった家庭用のヒートポンプ機器と違い産業系などにヒートポンプを含めたエネルギーシステムを導入するに当たっては、現場のエネルギーフローをきちんと分かっている人材でないと、省エネに資する最適なシステムを提案できません。こうした役回りは、誰が担うべきでしょうか。もちろん需要家側の現場の設備管理者でもよいのですが、一方で、エネルギー事業者がそういった役割を担ってもよいかもしれません。その辺りについてコメントはありますか。

杉山 需要家自身がそのような人材を確保していることが、最強です。グローバルに名を馳せているような国内企業は総じて、そのような人材を保有しています。ただ、誰もがそうした人材を抱えているわけではないので場合によってはエネルギー事業者、あるいはエネルギー系のエンジニアリング会社が担うべきかもしれません。

齋藤 デジタル技術やパソコンの解析技術の進展に伴い、(エネルギーフローの)シミュレーションソフトも進化しています。先ほども少し触れましたが、そうしたソフトを使えば、誰もがエネルギー設備の最適配置やコスト削減効果などを簡単に見える化できます。

杉山 工場もデジタル化が進む中、そうした技術によって熱利用を含めたシステムをしっかりと評価できるようになればよいですね。

齋藤 加えて中立的な立場や組織の人たちが、「評価・検証体制」をつくらなければならないと感じています。

―最後に一言お願いします。

齋藤 付加価値の面に触れますと、例えばコロナ対策技術、つまり換気とヒートポンプ技術を組み合わせた建築設計、あるいは食品ロスを減らすヒートポンプ技術。コンビニなどで食品ロスが出る理由の一つが温度管理です。ショーケースでの温度管理が不適切だと、食品を捨てることになります。この温度管理もヒートポンプで行えば、省エネも実現して一石二鳥です。決して新しい技術ではないですが、既存の技術を組み合わせることで、新しい価値を生み出せます。そんな役割をヒートポンプが担えればと感じています。

杉山 再び繰り返します(笑)。明らかに取り組んでいない家庭用のエアコンはぜひ始めてほしい。家庭のエアコン暖房だけでも、日本のCO2排出量を1%削減できるかもしれません。数字はあまり言わないほうがいいかもしれませんが(笑)。ただ、明らかにコスト効果もあるし、CO2も減らせます。また、業務用や産業用については、例えば食品工場の生産プロセスは、ヒートポンプと相性がよく経済的に自立できるケースは多いはずです。その辺をしっかりと精査していく必要があります。

―本日は、ありがとうございました。

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