【特集2】産業の脱炭素化担う主力機器 需要の高度化・最適化を促進

2021年9月2日

同シミュレーターは研究に参画する金属系材料研究開発センター(JRCM)のウェブを介して9月中に公開される予定。NEDO省エネルギー部の占部亘主査は「塗装・乾燥工程、混合・加硫工程、加熱・乾燥工程など各種製造工程で必要な温度域はある程度類型化できる。今後は工業業種別で使われる温度域を割り出すことでより使いやすいシステムを作りたい」と語った。

またNEDOでは技術開発に加え、日本の脱炭素技術を海外の工場に導入し、新たなビジネスチャンスにつなげる実証事業も行っている。2017年10月から21年3月にかけて行われた実証事業では、日本総合研究所、横河電機、東京電力ホールディングスが、中国のアルミ工場および紡織工場に産業用HPやターボ冷凍機など国産技術を導入。両工場の省エネに大きな貢献を果たしている。

開発した「産業用ヒートポンプシミュレーター」 提供:早稲田大学

再エネ電気の活用を促進 需要最適化で脱炭素

省エネ政策をつかさどる経済産業省は、これまでエネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)や業種別のベンチマーク制度、設備導入補助金を中心に需要家の省エネを図ってきた。

産業用HPをはじめとした機器について、資源エネルギー庁省エネルギー課の江澤正名課長は「50年CNを目指す上で大きな力を持っている」と話し、高効率設備を導入することによる徹底した省エネの重要性を説く。

そして現在、政府はこれまでの取り組みに加えて、全国で増加する太陽光、風力発電をはじめとした非化石エネルギーを最大限利用するため、需要側も工夫を重ねることで産業のCNを実現する新たな政策議論を進めている。

その大枠として、①非化石エネルギーの導入を拡大する「需要の高度化」、②供給側の状況に合わせて需要を変動させる「需要の最適化」、③需要側も電力系統安定に貢献する「レジリエンス強化」―の3点を示した。

そのうち②については太陽光発電所が多い九州地域では再エネ出力抑制が何度も発生し、同エリアの日本卸電力取引所(JEPX)価格は0.01円kW時を記録。需要側において、余っている再エネ電気を最大限活用するなど、省エネ法で定める需要平準化時間帯にとらわれず、需要の最適化を図りたい考えだ。

既に北九州市に工場を持つ東京製鐵は九州電力と提携して、再エネの出力抑制時に電気炉を稼働するなど、需要家側のマインドにも変化が起こりつつある。「出力変動の大きい太陽光や風力発電の変化に合わせて需要を最適化できるよう制度面も変わる必要がある。まずは対応できる工程だけでも進めてもらいたい」(江澤課長)。

これまでの省エネ政策に新たな視点を加えながら産業のCNを目指していく。 最先端の技術開発が進むと同時に、政策面でも省エネ機器導入が推進されている。産業用HPの重要性は今後ますます高まっていきそうだ。

1 2