発電所が安心と信頼を得るために 安全性向上と真摯な対応を続ける

2021年9月5日

【金居田 秀二/東海発電所・東海第二発電所 副所長 原子力災害防止担当)】

東海発電所と東海第二発電所の副所長を兼務する金居田秀二さんは、豪快さと繊細さを併せ持つ。

所員への信頼が発電所への信頼につながるとし、地域に交わり地域に向き合う。

 日本原電の東海・東海第二発電所は三つの特徴を持つ。①東海発電所は廃止措置の最中であること、②東海第二発電所は安全性向上対策の工事中であること、③使用済燃料を、国内でもまれな乾式貯蔵方式で保管していること―だ。

特に東海第二は、3・11の前に海岸付近にある重要設備の防護壁の高さを増す工事に着手し、津波の被害を最小限に抑えた。現在、さらに高い津波に備え、防潮堤の工事を行っている。

東海第二の防潮堤の要となる鋼管杭
60mの深さまで達する場所もある

こうしたことから視察の依頼が途切れず、コロナ対策をした上で、年間40件近くを受け入れている。

その視察対応をするのが両発電所の副所長であり、原子力災害防止担当の金居田秀二さんだ。金居田さんは、自治体や各市町村の議会、近隣の住民に発電所の現在の状況や工事状況などを説明する役割も担う。

かないだ・しゅうじ 栃木県出身。1995年東北大学大学院工学研究科修士課程修了後、日本原子力発電入社。東海・東海第二の運転、炉心管理などを経て発電所の安全解析・安全評価を担当。2011年から安全性向上対策検討・原子力規制委員会への審査対応など。20年から現職。

大学では原子核工学を専攻した。研究を深め、高速増殖炉などの新技術開発にも関わる同社に大きな魅力を感じ、就職を決めた。

入社後は発電所の運転、炉心管理などを担当。2001年からは東海第二と敦賀発電所の安全評価の業務に就く。発電所で想定されるさまざまな事故などを解析し安全運転への備えに力を注いできた。

安全性向上対策に従事 例のない業務に取り組む

そのような中、11年に起きた福島第一原子力発電所の事故―。新たな業務を命じられた。原子力発電所の安全裕度を確認するストレステストだ。安全対策とその有効性を評価した報告書をまとめ、当時の原子力安全・保安院に提出する重要な任務だった。今までにない仕事だ。ちょうど、多数のグループ員を受け持つマネージャーになったところだった。

「業務の采配も大変だったが、グループ員のケアが難しかった」と、当時を振り返る。

事故後、それまで原子力に誇りを持って仕事をしていたグループ員は、異なる反応を見せ始めていた。淡々と取り組む者もいれば、これまで以上に熱意を燃やす者、後ろ向きになるグループ員もいた。

チームをまとめ、モチベーションを維持するために心掛けたのは、毎朝のミーティングで必ず自分が最初に話すこと。業務に関係ないことでも、毎朝口火を切ることを自分に課した。

「マネージャーとしてそこにいることをグループ員に伝えたかったのかもしれない。先に何か話せば、相談もしやすくなるのではないかと思ったのです」。この行動に根拠はない。自分の存在を感じて安心してもらいたかった。そして、原子力は資源の少ない日本のエネルギー源の一つとして不可欠なのだという強い信念が心を支えた。

「神は細部に宿る」 人として信頼を得るために

大学時代は応援団だった。「入学してすぐ声を掛けられ、食事をご馳走してもらったのです。学ランを着て怖そうだけど、いい人たちだなと思って」と屈託なく笑う。外向的な性格ではなかったが、いつの間にか度胸がついた。自分たちの応援でチームが活気づくのもうれしかった。今も発電所の状況を地域の人々に説明する時に、大ホールの壇上で緊張しつつも臆さず対応できるのは、応援団での経験が生きていると感じている。

説明会では発電所の安全評価などの経験を生かし、安全対策の裏付けとなる技術的な解説を行う。ある時、住民からこう言われた。「安全であっても安心ではない」「自然災害への備えをすることは分かったが、安心はできない」

はっとした。「どんなに安全設備を備えても、最終的には人が操作する。そこで働く人を信頼できるかにかかっている―」

しっかりと質疑応答ができるのはもちろんのこと、所員の普段の行動や態度も地元の人々からの信頼感の醸成に影響する。人となりを知ってもらい個人として信頼してもらえるよう、それからずっと地域に根差した活動を地道に続けている。

東海村での発電所状況説明会の様子

業務では「神は細部に宿る」がモットーだ。「説明資料がどんなにいい内容でも、誤字や脱字で評価は落ちる。細かい部分までしっかりと仕上げることが信頼につながる」と信じる。

金居田さんと連携して地域への説明を行う高島正盛地域共生部長は、最初の出会いが印象深いという。「発電所の安全審査などに精通した技術者で専門知識も豊富なので、見た目同様、硬い説明になるだろうと思っていました。ところが、作る資料は見やすく、説明会では住民の方からの素朴な質問にとても分かりやすい言葉で回答している。そのギャップに驚きました。まさに適任です」。豪快かつ繊細、真摯な対応は、頼れる存在だ。

金居田さんは原子力の有効活用は今後の日本に必要だと話す。

「一律に原子力を全て廃止し、ほかのエネルギーに偏るのはむしろリスクが大きい。安全性をより高め、過酷な事故の可能性を極力低くした上で活用することが国の発展につながると思っている。この思いを地域の皆さまに丁寧に伝えていきたい」

大らかに明るく語っていた口調がひときわ力強くなった。