スマートメーター置き換え完了 ゼロから挑んだプロジェクト秘話

2021年9月11日

【東京電力パワーグリッド/藤木武博 スマートメーター推進室 室長


ふじき・たけひろ 1990年大阪大学大学院修了、東京電力入社。同電子通信部部長代理、TEPCO光ネットワークエンジニアリング常務取締役を経て、2018年4月1日より現職。

東京電力パワーグリッドは、自社サービスエリア内の電力メーターをスマートメーターに置き換えた。

設置台数は約2840万台。わずか7年で目標を達成した陰には、さまざまな工夫と苦労がある。

 ――東京電力パワーグリッド(PG)は自社サービスエリア内でスマートメーターを2021年3月末までに約2840万台設置したと発表しました。

藤木 当社サービスエリア内では14年4月にスマートメーター1号機を設置しました。推進室自体は13年7月に立ち上がり、当初の計画は23年度中をめどに設置する計画でしたが、お客さまへのスマートメーター導入効果をより早く実現するべく、設置目標を当初計画から3年間前倒しして20年度中に変更しました。

スマートメーター取り付けの様子

――プロジェクトはどのように推移しましたか。

藤木 14、15年度はプロジェクトがスタートした当初ということもあり、当社の体制およびメーターの生産ラインも整わず、設置台数は約200万~300万台にとどまりました。16年度から18年度にかけての3カ年は単年で約600万台設置しています。

 これは16年に電力小売り全面自由化が解禁され、新電力へのスイッチングを円滑に行うためにはお客さまにスマートメーターが普及している必要があったためです。実際にスイッチング申し込みがあると、8日以内に作業をする必要があります。しかし想定以上に交換台数が多かったこともあり、一部のお客さまにご迷惑をお掛けしたこともありました。

――20年には新型コロナウイルスの感染拡大もありました。

藤木 16〜18年度はハイペースに設置を行ったこともあり、19、20年度の設置台数は落ち着きました。ただ、コロナ禍の影響で中国の武漢で作っていたスマートメーター用の部品が届かず、機材不足に陥る事態も一部で起きました。

通信網も独自開発 接続率は99・9%

――電力データを送受信する通信インフラも独自に開発されました。

藤木 通信ルートには、スマートメーターで計量した電力データを送配電会社に送信するAルートと、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などに接続するBルートの2種類があります。

 Aルートで利用できる通信手段は①バケツリレーのようにスマートメーターやコンセントレーターを介して通信を行うマルチホップ方式、②通信事業者の回線を利用する携帯方式、③電力線で計量データを通信するPLC方式―の3種があります。当社サービスエリア内では①と②の方式を採用していて、市街地などネットワーク密度が濃い地域が①(約85%)、山間部などマルチホップで通信できない地域では②(約15%)というように使い分けています。

――どんな苦労がありましたか。

藤木 ①はコストが安いというメリットがある一方で、独自に通信網を構築する必要がありました。13年に推進室が発足してから専属の検討チームを作り、東芝と協力して、どの程度の密度なら円滑に通信を行えるのか、またデータを送信するコンセントレーターはどのように配置するのが効率的かなど、シミュレーションや試行錯誤を重ねました。

 21年3月末までに約2840万台を設置し、メーターの接続率は99・9%となるなど、非常に安定した運用ができています。プロジェクト発足当初はトラブルも多々あったので「これで大丈夫か」と心配もしましたが、原因を一つ一つ解決したことで、現在の通信品質につなげることができました。システムベンダーや計器メーカー、工事会社の皆さま、何より設置にご協力いただいたお客さまのおかげで達成できました。心から感謝しております。

スマートメーター設置台数の推移

生産性向上に工夫 価値あるものをデザイン

――通信網整備と同時に、約2840万台のスマートメーターを設置しています。設置作業で工夫はありますか。

藤木 設置年数が3年間短縮されたことで、作業の生産性をどれだけ上げられるかが重要でした。スマートメーターの交換は、現場作業だけでも1台につき10〜15分かかります。工事会社の皆さまが効率良く作業できるように、移動時間が少なくなるルートを選定するなどして、できる限り負担が減るように工事会社と協調して対応しました。

 工事に関わった2000人以上の工事会社の皆さまには感謝しています。

――現在、スマートメーターの検満を見据えて、次世代スマートメーター仕様策定の議論も進んでいます。スマートメーター推進室の今後の展望は。

藤木 具体的な工程はまだ決まっていませんが、次世代スマートメーターの更新計画も推進室が担当します。メーターは一度設置すれば10年間使われる機器です。お客さまと事業者の双方にとって使いやすいものでなければなりません。価値があって使いやすいものをデザインしたいと思います。