【特集2】地元静岡で築いた事業ノウハウ 他エリアへ進出し新規開拓に応用

2021年10月3日

【インタビュー:植松章司/東海ガス社長】

顧客に寄り添ったガス体エネルギーならではの「地域密着」事業ノウハウ。TOKAIグループの東海ガスでは、構築してきた手法を元に事業拡大を図る。

―貴社は静岡県志太エリア(焼津市、藤枝市、島田市)で事業展開しています。顧客や地理的な特徴についてお聞かせください。

植松 志太エリアは、志太平野に大井川が流れ、水資源が豊富な土地です。このため、昔から産業が集まりやすい土地であり、食品・飲料分野を中心に多くの工場が点在し、当社のガス販売量の8〜9割を工業用の大口需要家が占めます。残りの約1割強が家庭用です。

燃料転換を推進 事務手続きをサポート

―工業用の大口需要家にはどのような営業活動を行っていますか。

植松 現状ではやり尽くした感がありますが、新規の工場建設などはもちろんウオッチしています。さらに、大口需要家向けには石油やLPガスを利用している顧客に燃料転換を促す営業を行っています。燃料転換では設備購入費用が経済産業省の補助金の対象となります。ただ、そうした書類の申請手続きが煩雑なため、当社がお客さまをサポートしています。




ガス燃料転換の際に導入する蒸気ボイラー

―昨年10月の菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル宣言以降、大手ガス会社はカーボンニュートラルLNGを調達し始めました。大口需要家が多い貴社に対しても、そうした問い合わせは増えていますか。

植松 上場企業の工場を中心に、CO2削減への取り組みを加速させなくてはならないとの声は聞きます。カーボンニュートラルLNGの導入についても、多くの問い合わせがあり、とても注目度が高いように感じます。しかし、各社が実際に導入するのは、まだ先になると見ています。

 当社では今年8月、森林吸収由来クレジットなど複数の事業者から創出されたJ―クレジットを買い受け、これを都市ガスに付加した「カーボンニュートラルガス」として、自治体・公共施設向けに販売を開始しました。ただ、このスキームで大口需要家への供給量を賄うことはできません。導入について話が進むようであれば別の方法を検討します。

―家庭用はいかがでしょうか。

植松 検針や機器の修理でお客さまを訪問するのはLPガスと同じですが、都市ガスはLPガス以上に顧客との密接なつながりがあります。都市ガスは供給できるエリアが決まっているため、お客さまの密度が高いです。

具体的な活動としては、定期的に東海ガスの機関誌「エプロン」を配布したり、LINEを使って地域の住民の方々に役立つ情報を発信したりしています。会社の機関誌ではありますが、商売のことよりも地域に密着した情報。例えば、最近オープンしたお店の情報などを掲載することで、お客さまに喜んで読んでいただいています。紹介されたお店も当社のお客さまの場合があり、掲載すると喜んでもらえます。

また、リフォーム事業にも注力しています。自治体が実施する補助金の情報をうまくキャッチアップして、テレワーク向けのリフォームを、コストを抑えながらできることを顧客に伝えて受注を獲得するなど、燃料転換と同じような手法も使っています。コロナ禍になる前は、当社の体験型ショールーム「くりっぴープラザ」において、リフォームやガス機器の販売イベントも月1回程度開催していました。

―ガス管の延伸は進んでいるのでしょうか。

植松 40年前は導管の総延長が約600㎞程度でしたが、1200㎞程度まで伸びています。現在も採算の合う新規のお客さまについては、工業用・業務用・家庭用問わず導管を延伸していく方針です。 ただ、志太エリアの顧客シェアを見ると、当社の都市ガスとLPガスのお客さまは合計で6割、販売店などを含むグループ全体では7割に達します。残りの3割のうち1割はオール電化のお客さまで、残りの営業先は2割です。その獲得に注力するより、他エリアに進出して顧客を獲得する方が成長できると判断し、事業拡大を図っています。

公営ガスを譲受 生活提案の営業

―18年に群馬県下仁田町、19年に秋田県にかほ市の公営ガス事業を譲り受けています。

植松 公営ガス事業は、その事業特性から、ガス管の延長や事業拡大に対しては、どちらかといえば、受け身の姿勢で事業運営が行われています。当社の場合は、お客さまの豊かな生活提案のため、しっかりと営業を推進しますのでビジネスチャンスはあるだろうと考え、譲り受けました。

―具体的な成功案件があったら教えてください。

植松 下仁田町では、工業用・業務用のお客さまが都市ガスに燃料転換していただけることになりました。これにより、これまでの年間販売量は80万㎥程度でしたが、22年初頭には3倍強の250万㎥になる見通しです。

にかほ市では、市が誘致した企業のコールセンターの空調をEHPからGHPに設計変更していただき、当社が22年3月からガス供給を行う予定です。

家庭用のお客さまには、志太エリアと同様、「TLC(トータルライフコンシェルジュ)」構想の下、電気やアクア(水宅配)、モバイルやインターネットなどのサービスを展開しています。TOKAIグループの中でも都市ガスのお客さまは、1軒で当社グループのサービスを複数契約していただいている複数取引率が59・7%と高いです。下仁田町は電気の契約を多く取り付けています。志太エリアと同じように新たな契約に結び付けていき、「第二の東海ガス」へと成長させたいと考えています。

―今後も他エリアに進出する可能性はありますか。

植松 TOKAIグループの方針として、M&Aを推進していますので、引き続き情報収集を行い、検討していくことになります。事業拡大に寄与するような案件があれば積極的に行っていきます。

―今後取り組んでいきたいことや目標は何かありますか。

植松 第一に都市ガスやLPガスの販売があります。さらに、TLCの新たな展開、多角化という命題が常にあり、新たな商材はないか探しています。例えば、防災器具のリース販売などを計画しています。TLCの役割は会員サービスによってポイント還元などで他社よりお得を提供、また、お客さまの暮らしを豊かにするサービスを提供し、複数取引率を高めることによって、お客さまから選択される会社となることです。




うえまつ・しょうじ  1978年4月東海ガス入社。2004年5月TOKAI東京本社高圧ガス事業部長、同社取締役、執行役員、常務執行役員、東海造船運輸社長などを経て、19年4月から現職、同年6月からTOKAIホールディングス取締役、21年6月からは同社専務執行役員を兼任