【コラム/10月12日】岸田政権の誕生は、現実的なエネルギー政策への転換につながるのか?

2021年10月12日

福島 伸享/元衆議院議員

先月、自民党総裁選が盛り上がる中の本コラムで私は、「幸か不幸か、エネルギー政策が政局の争点となった」と題して、「近年の日本の政治にはあまりなかった、エネルギー政策を争点とした選挙が行われることになるだろう」と予測した。菅前政権がカーボンニュートラルを掲げ、小泉環境相や河野規制改革担当相が過激な政策を掲げる中、とりわけ総裁選に出馬した河野氏が核燃料サイクルの中止を掲げたことから、本質的なエネルギー政策の議論がなされることを期待したのだ。

しかし、現実にはそうはならなかった。核燃料サイクルからの撤退を実現するためには、核燃料サイクル関連施設を多く抱える青森県との関係の調整、使用済み燃料を青森県に搬出している原発立地自治体との関係の整理、日米原子力協定の枠組みがどうなるのか、などこれまでの自民党政権の下での原子力政策が内包する解決困難な矛盾がパンドラの箱を開けるように飛び出してくる。自民党の総裁候補が威勢よく唱えた「改革」の言葉は、ブーメランとなって我が身に戻ってきて、大量の出血が起こる可能性もあるのだ。おそらく、そのことに党内の誰かが気付いたのであろう。連日メディアを使って派手に行われた総裁選候補者同士の討論会のテーマから、エネルギー政策は巧みに外されていた。

その結果、バランスの取れた穏健なエネルギー政策を掲げる岸田氏が新総裁・新総理となり、胸をなでおろしたエネルギー関係者も多いことだろう。調整型の萩生田氏を経済産業大臣に、民主党から鞍替えした山口氏を環境大臣に、エネルギー政策に深く関与してきた嶋田前経済産業事務次官を首席秘書官に就けた人事や、規制改革会議の廃止などの機構改革によって、河野氏や小泉氏のようなパフォーマンス先行の先鋭的な政策推進が行われることがないことは、容易に想像がつく。

しかし、私は日本のエネルギー政策にとって、決して安堵できる状況ではないと考える。岸田新総理の所信表明で「エネルギー」という言葉が出てくるのは、「二〇五〇年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします」という箇所だけだ。そこには、再生可能エネルギーも原子力も何ら具体的なことが示されていない、当たり障りのないものだ。

この10数年間の日本のエネルギー政策の最大の問題点は、「原子力か再生可能エネルギーか」というスローガン的な二元論の狭間で、今日本のエネルギーが抱える目の前の本質的な問題の解決を政治が逃げ続けていることにある、と私は考える。それは突き詰めて言えば、原発を使うにしても、なくすにしても、今ある原子力をどうするのかという現実の問題に何ら具体的な政策や対策が出されていないということだ。

立憲民主党が掲げる「原発ゼロ法案」は、原子力をなくす方法を法律には具体的に示さず、政府に丸投げしている。それを政府が作れるのであれば、苦もないだろう。一方の自民党も、「原発の再稼働を着実に進める」と言いながら、その環境を整えるための制度作りなどはほとんど行っていない。高速増殖炉もんじゅが廃炉になる中で、明らかにこれまでの核燃料サイクル路線はいったん蒔き直しをする必要があり、「純国産エネルギー」と称していた原子力の位置づけが短期的には変わっているにもかかわらず、何ら原子力政策の枠組みの見直しには取り組もうとしていない。

河野太郎氏が投げかけた核燃料サイクルの中止を題材とする議論の中で、そうした問題への具体的で有益な議論が展開されることを期待していたが、そうはならなかった。岸田政権の誕生は、日本のエネルギーが今抱える本質的な問題に蓋をして、不作為の時間をさらに続ける結果にしかならなかったのではないか。政治が不作為の時間を過ごしている間にも、世界の情勢は変化し、技術は進化し、あるいは退化していく。エネルギー関係者は、岸田政権の心地よいぬるま湯に浸かるのではなく、政治の不作為への警鐘の声を上げるべき時だろう。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。