防災業務を一元化する専門部署 備えへの意識を高め早期復旧を目指す

2021年11月5日

【中国電力】

新設された保安防災部・防災グループは、非常時の災害情報を収集・集約・発信する役割を担う。

スムーズな復旧のために平時からの社内の意識付けや、人材育成にも取り組んでいる。

中国電力ネットワークは今年4月、「保安防災部」を新設した。防災の主管箇所となる「防災」グループの他、「保安」「配電研修」「送変電研修」の四つのグループから構成され、部には34人が所属している。

分社前の2019年12月、「非常災害対策室」を大幅リニューアルした。中国地方に甚大な被害をもたらした、18年7月の西日本豪雨の災害対応の経験を踏まえた対策だ。大型モニターやTV会議システムを完備し、災害対策本部と復旧活動にあたる現業機関との確実な情報共有のため、ICT(情報通信技術)を活用した支援ツールも数多く導入した。また、毎年実施している総合防災訓練での気付きを防災関連システムに継続的に反映させてきた。

さらに、近年激甚化する自然災害への対応強化と昨年6月の「エネルギー供給強靭化法」の施行による電力業界に対するレジリエンス強化への社会的要請の高まりを受け、防災の専門セクション「保安防災部」の新設に踏み切った。防災に関する専門部署の設置は、大手電力では初めての取り組みだ。

防災の中枢となる司令塔 的確な判断が早期復旧に

防災グループは平常時には、非常時に備えた社内体制整備に従事する。例えば、防災に関する社内ルールの策定・改正、災害時に一体となって対応する全社総合防災訓練の企画・運営を行う。また、自治体や自衛隊、海上保安本部、NEXCO西日本との連携や協定が非常時に有効に機能するための関係づくりや共同訓練実施にも力を注ぐ。昨年7月に一般送配電事業者10社で国に提出した「災害時連携計画」に基づく一般送配電事業者間での相互応援など、新しい法制度に対応したマニュアルの更新も重要な仕事だ。

今年の総合防災訓練は部署設立後、わずか2カ月で行われた。同グループは災害時連携計画を念頭に、他電力への事前の応援要請や自治体へのリエゾン(情報連絡要員)派遣、自衛隊や海上保安本部への協力要請などを訓練シナリオに盛り込んだ。新しい制度や協定が有効に機能するかを検証するためだ。訓練は台風による設備被害を想定。社員が現地でドローンを操縦して故障箇所を撮影し、本社の非常災害対策室でリアルタイムに確認した。停電箇所や被害現場で復旧作業に当たる社員が撮影した写真や、高圧発電機車の位置情報をウェブ上の地図に表示。即座に復旧活動の情報を共有した。

総合防災訓練では社員がドローンを操縦し撮影した

訓練から2カ月経った8月、中国地方では、台風9号と線状降水帯を伴う記録的な豪雨といった災害が続いた。台風9号の際には、波が高く民間船は欠航したため、海上保安本部との協定に基づき、島根県隠岐諸島へ復旧応援要員を搬送した。豪雨では、同じく隠岐諸島で土砂崩れの発生により、1200戸を超える住宅が停電する事態となったが、1000kVAの高圧発電機車をフェリー輸送。即日の停電解消を実現した。この時も、位置情報をリアルタイムで地図上にマッピングするシステムを活用した。本社の対策本部で高圧発電機車が現場に到着するまでの一部始終を見ながら、現業機関における復旧計画の遂行状況を確認することができた。

非常時には司令塔として、情報を的確に収集・集約・発信する判断力が求められ、非常災害対策本部を運営する中心的役割である情報班として行動する。8月の台風襲来や豪雨の際にも、復旧活動に関わる情報を総本部速報として取りまとめ、社内に随時発信した。

同グループの小方美和マネージャーは「災害時は、土砂崩れや河川氾濫などのテレビ映像が次々と報道される。そのような状況下で自社の設備状況に関する迅速な情報発信は、社内関係者の安心と確実な状況判断につながった」と、部署が果たした役割を振り返る。

停電情報を知らせるアプリも提供

同グループでは週3回、中央給電指令所と日本気象協会との気象情報共有のためのオンライン会議にも参加。台風の接近や大雨の予報などの気象情報をもとに、離島への復旧要員の事前派遣など、災害対応への準備を全社的に指示することも重要な防災業務だ。

リエゾンの育成にも注力 専門部署で細やかに対応

一方で同グループは、自治体との調整力を持ったリエゾンの育成にも力を入れている。非常時に自治体などに派遣または駐在し、自社の対応状況を情報提供しながら必要な応援を依頼したり、自治体からの要請を自社に伝え、連携が最大限に機能するよう橋渡しをする重要な役割だ。

新たな試みとして、リエゾンに任命された社員を対象にした研修を企画した。研修では、リエゾンの役割や派遣の流れ、情報連絡経路、持参物など事前準備の具体的な実施事項の説明を行った。また、西日本豪雨災害や広島市土砂災害で実際に復旧活動を経験し、リエゾンという用語がまだ使われていなかったころに自治体との調整・対応に従事したOBを講師として招き、体験を語ってもらった。オンラインや動画配信を通じて200人以上が参加し、リエゾンの役割についての貴重な学びの場となった。

小方マネージャーは、部の新設が全社に防災を強く意識させるきっかけになったと感じている。「平時から非常時まで防災を一元的に取りまとめる組織として社内外の期待に応え、保安防災部の存在価値を高めていきたい」。今後のさらなる活躍に期待がかかる。

非常災害対策室での小方美和マネージャー