【特集2】電気料金負担が重荷の中小企業 「S+3E」前提の脱炭素に期待

2021年11月3日

【インタビュー:大下英和/日本商工会議所産業政策第二部部長】

脱炭素時代に向けて、中小企業は今何を思っているのか。日本商工会議所に、需要家の立場から話を聞いた。

―現状のエネルギー情勢をどのように受け止めていますか。

大下  日本商工会議所は全国515の商工会議所の連合体で、会員事業者数は122万件に上り、その9割以上が中小企業です。東日本大震災以降の原発停止やFIT賦課金で電力価格が高い水準です。コロナ禍で中小企業の事業環境が厳しくなる中、電力コストが重荷になっている状況です。

―業界はカーボンニュートラルへ(CN)の取り組みに軸足を移し始めています。

大下  エネルギー政策の基本であるS(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)の四つの要素を前提に取り組む必要があります。環境の追求は大切ですがエネルギーのコストアップは中小企業にとって死活問題です。

 今夏、会員企業に実施したアンケート調査では、上昇傾向にある電力料金について「経営にマイナスの影響」との回答が85%に達しました。毎年、調査を実施していますが、ここまで高い数値が出たのは初めてのことです。

―国は再生可能エネルギーの主力電源化を進めています。

大下  再エネだけに頼ることに懸念を抱いています。脱炭素への取り組みは進めるべきですが、再エネ主力化に向けては、安定供給を支える蓄電設備や電力系統網の増強が必要です。現実的な時間軸やコスト負担の見通しを国民や中小企業に示したうえで議論を進めていくべきです。

 また、3Eの一つである安定供給は、経済活動や国民生活に不可欠です。北海道停電、千葉県を中心とした台風被害による大規模停電は、企業の事業継続にも大きな影響を及ぼしました。災害の多い日本で、再エネを主力化しかつ安定供給を維持し続けることの大切さや難しさを痛感しています。

安定供給の難しさ痛感 LNG火力の役割高い

―天然ガスやLNG利用、あるいはその他の電源について何か意見はありますか。

大下  自然環境により発電量が変動する再エネ電源を拡大していくうえでは、バックアップとしての火力発電の助けが必要です。その際、LNG火力の役割は大きいと考えています。また産業分野では、電化による対応が難しい高温域も存在しており、天然ガスの活用が期待されます。同時に官民が連携し、LNGを安定的に調達できるように産ガス国との良好な関係を維持し、海外権益の獲得など上流開発への取り組みを強化してもらいたいと思います。

 加えて、電力の安定供給と経済効率性の観点から、原発の活用が極めて重要だと考えています。大前提となる安全性が確認された原発については再稼働するとともに、原発を電源構成の中にしっかり位置付け、リプレースや新増設も選択肢として除外せずに議論してもらいたいと考えます。

―ガス会社への要望は。

大下  「脱炭素=電化」というイメージですが、電気のみに頼ると、逆にリスクとなります。多様なエネルギーをバランスよく組み合わせることがレジリエンスを高める上で重要です。既存のパイプラインを通じたCN都市ガスの供給、水素サプライチェーンの構築などで、脱炭素への取り組みを支えていただくことを期待しています。

―今後、日本商工会議所として取り組むことは。

大下  日本商工会議所では、現在、全国の商工会議所による環境アクションプランの策定を進めています。各地の商工会議所が、中小企業の脱炭素への取り組みを支援するとともに自治体と連携し、地元のガス会社や電力会社の協力もいただきながら、地域の取り組みを進めていければと思います。