【特集2】動き出した関東エリアの事業者 大手に続く地方ガス「脱炭素」への挑戦

2021年11月3日

家庭用や大口需要家からの脱炭素ニーズが生まれている。CN都市ガスを扱い始めた桐生ガスや厚木ガスの取り組みを追った。

脱炭素社会を支えていくのは再生可能エネルギーなどの「CO2フリー電気」だけではない。カーボンニュートラル(CN)都市ガスも、選択肢として保有しておきたいエネルギーの一つである。そんな新しい商材であるガスを巡って、大手事業者が先行していた取り組みが、地方ガス事業者にも広がってきている。

家庭用初の桐生ガス 1㎥単価7・7円増の負担

1925年に創業し、100年近くの歴史を持つ老舗の都市ガス事業者、桐生ガス。群馬県桐生市や太田市を供給エリアに抱え、約2万3000件の需要家を持っている。都市ガスの卸元はINPEXで、エリア内の需要構造は主に家庭用が中心だ。

そんな同社がこの度、INPEXとCN都市ガスの売買契約を結んだことで、日本の地方ガス事業者の中で一般家庭向けとしては初めてCN都市ガスの小売りを開始することになった。

「当社の自社消費分をCN都市ガスへと切り替えるほか、小口向けにオプションメニューとして販売を始めました」。そのように説明するのは桐生ガス営業部の村上恵理次長だ。

INPEXからの具体的な調達量や調達金額は公表していないが、ユーザーはオプションとして1㎥当たり7・7円を付加金として負担するスキームである。7・7円はINPEXからの卸値に加えて事務手数料などを加えた価格としている。

8月から販売を始めて以降、環境意識の高い家庭用需要家からすでに数件の申込みがあったという。また9月末には地元の金融機関である群馬銀行桐生支店向けに、桐生ガスの法人需要家としては初めて、供給を始めるなど、少しずつ販売数量を伸ばしている。

「他のエリアの地方都市ガス会社に加えて、当社供給エリア内の飲料、繊維、自動車部品の大口ユーザーからも問い合わせをもらっています」と村上さんは今後の展開に期待を寄せている。

「公益事業の精神を体し、良質低廉なる気体燃料を豊富円滑に供給する」を社是として、これまで地元に貢献しながら地元とともに持続可能な事業を営んできた桐生ガス。今後は、脱炭素を支える新たな商材を加えて、地元地域へ貢献していく。

「INPEXと売買契約を結びました」(村上さん:右)

大口需要家持つ厚木ガス 世界的企業のニーズを探る

脱炭素の波は神奈川県の県央エリアにも訪れている。1959年に創業して以来、約60年にわたって神奈川県厚木市や伊勢原市を中心に供給し続けている厚木ガス。創業当初700件程度だった供給軒数は、現在5万5000件程にまで伸びている。LPガス事業や簡易ガス事業などガス体エネルギー事業に加え、高圧向けの電力事業を始めるなど総合エネルギー事業者として歩み始めている。そんな同社も今、脱炭素戦略に奔走している。

ソニー、NTT、日産自動車、リコー―。厚木ガスの供給エリア内には、世界に名だたる企業の研究所が立地している。特に厚木ガス本社の両脇にはソニー厚木テクノロジーセンターが隣接するなど、グローバル企業からの「エネルギーへのニーズ」には敏感にならざるを得ない。

「世の中が脱炭素社会へと歩み出す中、従来から行ってきた重油から都市ガスへの燃料転換、あるいは高効率なコージェネ設備を導入して低炭素化を進めていくだけでは、解決しません。われわれとしては、これまで安定供給を支えるために整備してきた既存のガスインフラを座礁資産としないためにも脱炭素時代にふさわしいメニューを用意しておくことが極めて重要だと考えています」。厚木ガス営業本部長の鈴木正樹取締役はそう話す。

「脱炭素=電化」―。鈴木取締役がエネルギーのニーズについて、需要家からヒアリングする中、多くのユーザーはそんなイメージを持っていたそうだ。つまり、CN都市ガスの存在そのものがほとんど認知されていない状況だったというのだ。

そこで、厚木ガスでは、都市ガスの卸元でもある東京ガスと協議。その結果、CN都市ガスの卸売りを快諾してもらい、まずはその認知度向上に努め始めており、現在、大口需要家向けに具体的な小売り営業を展開中だ。例えば、某機械メーカーでは、エネルギー設備のリプレースのタイミングで、CN都市ガスの導入を検討してもらっているそうだ。

厚木ガスのガスホルダー

環境価値の国内法展開 大手会社との連携が必要

厚木ガスではCN都市ガスの認知度向上に向けて奔走しているが、事業規模が小さい地方都市ガス事業者による1社の自助努力では限界がある。旗振り役を担うべき大手都市ガス事業者に加えて、政策的な広報活動も必要になってくるだろう。一方で、認知度を高めていくだけでは本格的な普及には到底至らない。そこで、二つほど課題があるだろう。

一つは政策面だ。厚木ガスが指摘するのは、「CN都市ガスによるCO2削減分の価値を、国内法である省エネ法や温対法(地球温暖化対策推進法)へ適用できるかどうか」だ。現状では、そのあたりの法律的な交通整理が未整備である。ユーザーにしてみれば、コストを掛けてCO2削減に貢献したのに、その評価を得られないのでは、意味がない。これからの政策課題となるだろう。

もうひとつは、エネルギー設備のエンジニアリングに関する課題で、特に大口ユーザーに当てはまることがある。需要家には、CN都市ガスの導入を選択するのか、電化にするのか、あるいはBCP(事業継続計画)の観点から電気とガスのハイブリッドエネルギー方式を望むのか、などさまざまなユーザーが存在している。その選択を決断するタイミングは、需要側の設備更新の時期と重なるケースが多いだろう。その際、それなりの設備のエンジニアリング力が求められていくはずだ。かなりの技術力を要する。「エンジニアリング力があって、エネルギーサービスを手掛ける大手事業者と連携することが不可欠になると考えています」(鈴木取締役)。

本格的な普及に向けて、まだまだ課題を残しているCN都市ガスではあるが、その取り組みはまさに今、地方を含めた業界大で始まったばかりである。