【特集2】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み

2021年11月3日

【静岡ガス・岸田裕之社長】

―今年8月に「2050年カーボンニュートラル(CN)ビジョン」を発表しました。

岸田 当社では、菅義偉前首相の昨年10月のCN宣言以前から、30年に向けた中長期的な企業ビジョンを議論してきました。お客さまからCNについて相談や問い合わせをいただく機会も増える中で、当社の考えを示す意味を込めて、今回のCNビジョンを策定しました。今後、CNを実現していく上で、「地域共創」の文字通り、お客さまはもとより自治体や地域の皆さまとともに、取り組んでいこうと考えています。

 「脱炭素」の文字を前にすると、「コストがかかって収益的にも辛いもの」を想像する方が大半だと思います。確かに初期段階ではコストがかかり、困難な対応も多くあると思います。しかし、CN実現には10年、30年と長い時間軸で取り組む必要があります。その間に、経済やエネルギーを循環させる仕組みを構築し、最終的に収益面でもお客さまに喜ばれるものにしていけたらと考えています。

岸田社長

顧客とともに低炭素化推進 省エネでは提案を加速

―30年までに200万tのCO2削減との目標を掲げています。

岸田 この数値は、静岡県のエネルギー会社として、大きな目標を立てて取り組んでいるというメッセージでもあります。例えば、当社エリアの富士市には紙・パルプ、食品といった熱多消費産業のお客さまが多くあります。まずは、そうした企業の低炭素化を徹底的にサポートしていきます。そこで取り組むのが①天然ガスシフト、②コージェネなどのエネルギー高度利用の推進、③省エネビジネスです。①天然ガスシフトでは、C重油や石炭を使用している産業用のお客さまがCN宣言をきっかけに燃料転換に興味を持ち始めており、当社の提案に耳を傾けていただけるようになりました。CO2削減の施策をお客さま個々の事情に合わせて、ともに検討していきます。

―③省エネビジネスは営業力が重要になってきそうです。

岸田 お客さまが工場のエネルギー運用で困っていることを一つひとつ聞いていく必要があります。例えば、ある工場では熱配管の保温方法が旧態依然の方式のままでした。そこで、当社が新しい方法を提案したところ、大幅な省エネが図ることできました。こうした取り組みを加速していきたいです。課題は現場で分かることが多く、お客さまと良好な関係を築いていくことが重要です。30年まではこうした低炭素化に資する取り組みと、CNLNGクレジットとの組み合わせが大事になります。

CNLNGを積んだ船が同社袖師基地に入港した

その先、50年の脱炭素化への取り組みではメタネーションなどイノベーションが必要です。日本ガス協会や大手ガス会社と連携して取り組みを強化していきます。

―系列ガス会社もCNビジョンに基づき取り組むのでしょうか。

岸田 当社と導管がつながっているグループ会社は同じ考え方で取り組みを進めていきます。ただ、佐渡ガス(新潟県)のような会社は異なります。佐渡島は標高1000m級の山があり、森林が多くあります。例えば、佐渡島の森林を取得してCO2吸収価値をJクレジット化することでCNを推進できる可能性もあるでしょう。

 下田ガス(静岡県)では、市が使用する電気を切り替えるプロポーザルの際に、電力供給の枠にとどまらず、地域でエネルギーと経済を循環できる仕組みを導入できないかと提案しました。卒FITの電力を市役所や商店街に購入していただき、地域コインを発行するようなイメージです。これを地元の商店街などでの経済循環につなげることはできないかと。地域ごとに異なる特性に合わせたアプローチを考え抜きます。

―30年までに再エネ20万kW開発という目標については。

岸田 太陽光は一般的な野立てに加え、PPAモデルによる地域電源を考えています。太陽光発電設備を無償提供し、10~20年間のサービスとガス供給を行うモデルを展開していきます。また、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)にも取り組んでおり、耕作放棄地の解消などに寄与するものと考えています。

 バイオマスは今年5月、三菱地所などと埼玉県で剪定枝を燃料としたバイオマス発電所を手掛ける計画を発表しました。道路整備などで発生する剪定枝は廃棄物として扱われています。これを燃料として利用するものです。静岡県内でも同様の仕組みを用いた発電所を展開したいです。

―今後、エネルギービジネスはどうなっていくと見ていますか。

岸田 今後10年で低炭素化への取り組みがさらに加速していくでしょう。地域の皆さまや企業と知恵を出し、その地域に合ったやり方を見出して経済やエネルギーを循環させていくインフラの仕組みの構築が鍵になると思います。エネルギー企業である当社が中心になりながら魅力ある仕組みをつくっていきたいですし、「静岡ガスなら任せられる」という信頼を積み上げていきたいと考えています。