【特集2】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す

2021年11月3日

【北海道ガス】

北海道南富良野町は、北海道のほぼ中央に位置し、町総面積の約9割を森林地帯が占めるという緑の多い町だ。周辺は富良野市やトマムリゾートなど観光地に囲まれ、同町にもラフティングなど、アウトドアのオプショナルツアーを楽しみに来る観光客が多く訪れる。

さまざまな資源を守る森林 経営や維持管理が課題

そんな自然あふれる南富良野町において、課題の一つとなっているのが森林の維持だ。森林は維持管理に資金や雇用が必要となる。この経営を将来にわたり継続できるかが問題となっていた。近年では、森林を商行為対象と考える業者から森林を購入したいとの申し出が多数ある。そうした買い手は所有した後に木を伐採して、残った山をそのまま放置する可能性がある。責任を持った運営が継続される保証がないのだ。このため簡単に継承できないのが課題だった。

「森林を守ることは水資源の確保や自然災害の防止にもつながるため重要です。町内のかなやま湖に生息する魚の絶滅危惧種イトウなど、生物を守ることにもなります。南富良野町は自然を観光資源にしているため、森林の安定的な整備は欠かせません」。南富良野町企画課まちづくりプロジェクト推進室の川口健太主幹はそう話す。

一方、北海道ガスは2050年脱炭素という目標に向け、さまざまな施策を検討中だった。その一つにCO2吸収価値(CO2クレジット)を創出するアイデアがあった。また、同社はエネルギーを通じた地域の課題解決や活性化に寄与するための取り組みを行っている。これまで夕張市などと連携協定を締結した実績もある。

そこで今回、南富良野町とも連携協定を締結。町内のかなやま湖に隣接する土地142・82 haの森林を取得し、維持管理を行いながら、CO2吸収価値を創出していくことにした。南富良野町も「信頼おける企業に継承できて安心できた」(川口主幹)と語る。

取得したかなやま湖に隣接する森林

ただ、吸収価値に変える作業は当初手探り状態だった。北ガス経営企画部環境グループの笠原慎副課長は「どの程度の量を認めてもらえるか、認証機関はあるのかなどを調査し、J―クレジットを選択しました。吸収量は木の年齢によっても変わります。得たCO2吸収価値は決して大きい規模ではありませんが、前述の水や自然資源の確保の観点からも森林を維持管理することは重要です」と話す。北ガスでは、同森林を長期にわたり管理維持していく方針だ。

レジリエンス強化でも連携 極寒期でも2週間の避難可能

今回の北ガスと南富良野町の連携協定では、レジリエンス強化や再エネの地産地消の内容も含まれている。南富良野町は16年8月、洪水豪雨災害に見舞われた。昨今の異常気象による豪雨は、治水に問題なかった町の想定を遥かに上回った。これにより、主力産業のポテトチップス工場が浸水。3カ月操業を停止し、全国的に品不足になるなど大きな影響を与えた。

近年は、猛吹雪など冬の災害も増えている。町に入る二つの道路が寸断され、陸の孤島になってしまうこともあった。そこで、町では道の駅を改装して防災拠点にする計画を進めており、北ガスが参画する。22年に営業を開始する複合施設には停電自立型GHPや、LPガス非常用発電機を導入する。極寒期においても、2週間程度暖や食事を取れるようにする構えだ。

再エネの地産地消に関しては、現在、固定価格買い取り制度(FIT)で売電している町内の小水力発電(177kW)の電力を町内に供給するスキームについて検討している。また、太陽光発電を道の駅などに設置し、道の駅で消費し余剰が出る場合は、北ガスが購入することも考えている。

北ガスは、この知見を今後の取り組みに生かしていく。北ガス経営企画グループ地域連携・再エネ開発推進チームの宮澤智裕チームリーダーは「北海道には多数の森林が存在します。森林を有効活用しながら、環境問題、レジリエンス強化について地域と連携と進めることが、地域活性化に有効であると考えます」と説明する。

エネルギー事業者による、CO2の吸収価値の創出を目的の一つとした森林取得は全国的にも珍しいケースだ。こうした取り組みは今後さらに広まりそうだ。