【コラム/11月22日】電気事業のコアビジネスの拡大

2021年11月22日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前回のコラム(10/18)では、電気事業者が新たな価値創出を図っていくためには、事業分野の拡大が求められていること、また、そのためには異業種他社との協調(セクターコンバージェンス)が有効であることを述べた。さらに、ドイツのシュタットヴェルケを対象とした業界団体BDEWの調査では、電気事業者は、コアビジネスに近い分野での事業拡大と異業種他社との協調に最大のポテンシャルを見出していることを指摘した。今回のコラムでは、その実態を少し詳しくみてみたい。

同調査では、企業の約7割は、蓄電池を含む分散型電源、スマートメータリング、エレクトロモビリティの事業分野の拡大と他産業との連携が最も強く発展していくと考えている。

 蓄電を含む分散型電源は、ほとんどの企業が従事しており、他社との協調が最も進んだ分野である。この分野への顧客の需要は高く、また企業間の協力体制も整っている。協調は、これまで、コンポーネントサプライヤー、エネルギー分野のパートナー、最終顧客、施工業者などとの間で行われている。コンポーネントサプライヤーとの協調は、太陽光発電設備や蓄電池などの分野で行われている。蓄電池を含む分散型電源の分野は、顧客への近接性や技術的なノウハウでシュタットヴェルケは競争優位に立っており、付加価値の約30%を稼ぎ出している。

スマートメータリングについては、ドイツでは、スマートメータゲートウェイ(SMGW)機能の政府認証が2020年初めとなり、現在その設置が佳境に入っている。この分野では、他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、メーター・SMGWメーカーなどの部品サプライヤー、また住宅会社との連携は、不可欠であり、また着実に進展している。

BDEWの調査によると、スマートメータを用いた活動として、すでに実施またはこの1~2年のうちに実施するビジネスは、エネルギー供給と計量の組み合わせ (72%)、消費の見える化(71%)、変動料金(61%)、エネルギーマネジメント(59%)、一括検針(55%)、ディスアグリゲーション(21%)、第3者へのデータ提供(9%)となっている(カッコ内は調査対象企業に占める割合)(BDEW 2020)。スマートメータの設置のみにとどまらない活動の拡大は、異業種他社との協調の進展を示している。

なお、現段階で、第三者へのデータ提供について検討を行っている企業は少ない。その理由としては、SMGWを有するスマートメータの設置が始まったばかりであること、データを扱ったビジネスの経験がないこと、そして、最も重要なこととして、住民の高いロイヤルティを獲得しているシュタットヴェルケにとって、データセキュリティ確保に関しての懸念は払拭しきれていないことが挙げられる。しかし、業界団体BDEWは、データは「宝の山」であるして、プラットフォーマーの意義を強調している。

エレクトロモビリティについては、政府の政策と相俟って、電気事業者の関わりも活発化していくと考えられる。ドイツ連邦政府は、2019年10月に、気候保護法を閣議決定し、温室効果ガス削減のために、電気自動車を2030年には700~1000万台までに増大させ、そのため、充電ポイントの数を約100万に引き上げることを目指すこととなったまた、連邦政府は、電気自動車の普及促進のために、種々の税制上の優遇措置を導入し、充電ポイントの増大のために、給油所や顧客駐車場での充電設備の設置を義務付けることとなった。

エレクトロモビリティの拡大は、自動車産業だけでなく電力産業にとっても大きな関心事であり、電力企業はこの分野に従事することにより追加的な収益を獲得できる。また、充電インフラの拡大は、電力ビジネスや地域との近接性ゆえに、電力会社は競争上の優位に立つことができる。このため、シュタットヴェルケの79%は、すでに充電ステーションの運営を行っている(BDEW 2020)。これに対して、デジタルモビリティプラットフォームやモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に従事する企業は、現在、それぞれ20%、12%であるが、至近年に従事する企業を含めると、それぞれ36%、24%である(BDEW 2020)。

エレクトロモビリティの分野では、シュッタヴェルケは、これまでのところ、主に他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、住宅企業と協調している。現在では、調査対象企業のうち、自動車業界と協力している企業はわずか8%にとどまっているが(BDEW 2019)、エレクトモビリティの大幅拡大と充電ステーションの大量増加という政治的目標が掲げられる中で、シュタットヴェルケにとって、包括的なエコシステムの確立が急務となっている。

わが国の電気事業も、ドイツ同様、ビジネスの拡大は漸進的に進められてきたが、その際コアビジネスの延長線上に最大のポテンシャルを見出すことができるだろう。本コラムで紹介したドイツの電気事業における新たな価値創出のためのコアビジネスの拡大と他社との協調の実態は、わが国電気事業にとっても参考になるところが多いだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。